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 「ぐっ…ぐるじい…」


 思わずそんな声を漏らしてしまうほどに車内の人口密度は異常といえるものになっていた。

 本来ルールさえ守ればこんなことは起きないはずななのだが、やはりだれもが誰も目の前の電車を逃したくないと思うものだ。我先にと無理やり詰め込むため、その空間は地獄と化していた、


 「これは…キツいわね!!」


 真琴の叫びもこれ程の人だかりのなかではほとんど聞き取れないほどにかき消されていた。正に身動きがとれない状態。真琴、金田、椋はお互いでお互いを押し合いながら電車が目的地、正確には《色欲》の所持者が降車するのをひたすら待った。


 「この……車両の中……には居るのか?」


 真琴の耳元でボソッと呟く。話の内容が読み取られないようにあえて重要な単語ははずしておく。

 この話は知らない人が聞いてもわからないかもしれないが、もしもの時、何かと面倒なことを避けるために可能な限りではあるが公の場で『所持者』やらそんな言葉は使わないように心がけている。


 「大丈……夫。確実に居る……」

 

 本当に苦しそうな表情で真琴が何とか返事を返した。このままでは本当に潰されてしまう。それほどに肉の壁の威力はすさまじいものだった。


 と言うのも麒麟区周辺の路線ではまずこんなことは起きないのだ。個人個人がしっかりとルールを守り、無理せず満員になれば少しの余裕を持たせるために数人が自ら降車し、次の電車を待つ。どの電車に乗ろうと遅刻にはならないように運行ダイヤは設定されている。そんな無理に詰め込んだところで苦しくなるだけだという事を理解している麒麟の生徒はこんな無茶をしない。

 各寮でそれぞれ生徒の大まかな性格が決定するのがこの学園だ。それぞれの寮の生徒はその寮になじもうとその寮のルールを見て学ぶ。その結果がこれだ。すべての白虎生に当てはめていうわけではないが、これでは金田がこのような目に合うのは仕方ないかもしれない。上からの命令に逆らえない完全な上下社会、それが白虎寮なのだ。そのルールの大元を作った生徒がどんな性格なのか、予想を立てなくとも想像ができてしまう。自分でも珍しいと思ってしまうほどに名前しか知らぬ人間をかなり嫌悪している。あまりいいこととは言えないが、この状況を見ればそう思ってしまうのが自然の理と言うやつかもしれない。


 「どこらへんにいるんだ?」

 

 真琴に尋ねると、真琴は肉の壁に埋もれて抜けなくなっていた右腕を必死に引っ張り出し、その指でゆっくりと斜め前を指した

 



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