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「金田、授業の終了まであと何分?」
真琴が横の金田に問いかける。今はおそらく3限目の真っ最中だ。
「へい姉さん!だいたいあと10分、正確に言えば9分43秒です!」
金田が間髪入れずにその問いに答えた。なぜそこまで分かるのかは不明だが何かそういう性格に見えないこともないので気になる程度でとどめておく。
「急いだほうがいいな……」
それよりこっちだ。要するに《色欲》の所持者は後10分経てば教室移動を開始するという可能性が出てくることになる。そんな追いかけっこをしている暇はないのだ。エンヴィが学生である以上今のこの授業中という時間帯は決して行動できないはず、なにせ出欠は全て記録されているのだ。その日その時間帯に休んでいた人間がエンヴィ、かなりの数までしぼり込まれるのだからそんな馬鹿な真似をするわけがない。
「そうね、ちょっと走るわよ!」
そう言って真琴の歩幅が徐々に大きくなり、ついには走るに至った。彼女の能力はかなりのスタミナを食うはず。相当きついはずなのに無理して走っているのを理解しているわけで、実際のところ変わってやりたいところなのだが、あいにくフール先生は『愚かな捕食者』を開放してはくれない。
(無理か?)
『無理だな』
てな感じに即答で拒否られたのだ。
《愚者》の能力ではない『愚かな捕食者』を使うには、一度他の《愚者》の能力を切り捨てなければならない。まだ未熟な自分にとってそれは暴走の引き金になりかねないとのことだ。そしてその能力の切り替えには少々時間を要してしまう。もしも、《愚かな捕食者》を使用している時に敵との戦闘になってしまった場合、椋の戦闘手段は完全に周り頼りになってしまう。しかも能力の特性を知らない限りどう使っていいかもわからないという可能性も出てくる。実に危険な行為だとフール先生にストップをかけられてしまったのだ。
「(……真琴、大丈夫なのか?)」
彼女の近くまで近づき、金田に聞こえないように小声で囁く。一応は彼女の弱点だ。他寮生に聞かれてしまってはまずいと思っての行動だった。
「(……まぁ今日は調子いいほうだからまだしばらくは大丈夫かな。倒れない程度には頑張るから……)」
確かにまだ彼女の顔に苦悶の表情は見えない。先程までの歩行に今の走行、それのせいで出たのであろう少量の汗だけがその白い肌の上を流れ落ちていた。
「(……無理するなよ?)」
「(……わかってる)」




