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「わかりました……」


 金田がすっと立ち上がり背を向けそのまま元の教室へと向かいゆっくりと歩行を開始した。

 その背中が語る寂しさ、悲しさが彼の現状を物語っている。


 しかしどうすればいいかわからない。呼び止めたところで何になる。一緒に戦ったところでどうにかなる問題か?白虎の総大将を撃ってもその次が出てくる、その次を撃ってもその次の次が出てくる。固定されてしまったイメージ、『金田は白虎の屑』、概念のように染み渡ったその考えがこの白虎という大きな塊の中に存在する限り決して止むことはない連鎖。これは根本的な部分を潰しても永遠に続く限がない地獄なのだ。

 そうだ止めなければならない。この連鎖地獄を……。


 「金田!」

 

 彼に背を向けていた真琴が彼を呼び止める。椋よりも先に。

 振り返る無言の金田に真琴は背を向けたまま決して柔らかいとは言えない口調で告げた。


 「アンタが抱えてる問題は決して解決方法がないわけじゃないわよ。集団の意識が金田雅を責めるなら、アンタはそれを覆さなきゃいけないの。誰もが金田雅を受け止めてくれるっていう概念をアンタが作らなきゃいけないの。概念なんて覆した時点でこっちのもんなのよ……」


 金田の体が小刻みに震えている。先の発言に対する憤りか、はたまた先の発言を実行できない自分に対する憤りか。彼がその震えるからだから声を発するのには一分ほど時間がかかった。


 「それが……」


 聞こえるか聞こえないかのギリギリの音量。ただでさえ声が響きやすい廊下でこの程度しか聞こえないのだから相当に小さい音量だ。


 「それが……それができたら僕だって―――」


 それができたら僕だってすぐにやってる。そう言いたかったのだろう。しかしその言葉は真琴の叫びによってかき消された。


 「それができないからアンタは弱いのよ!!」

 

 彼女だって言いたくて言っているわけではない。

 金田に背を向け表情を隠す真琴は見ているこっちが辛くなるほどに悔しそうな表情をしていた。拳に異常なまでの力をいれ、彼を救えない自分を責め立てている。


 「僕は……僕は……」


 それを理解しているかしていないかは定かではないが、身体の震えを止め、再びこちらに向かい歩いてきた。

 さほど距離は離れていない。

 真琴が今の崩れた表情を金田に見せないためにと避けるように一定の距離を撮り背を向け続ける。

 

 「僕を連れて行ってください!!」


 金田の表情は先程まで絶望に満ちたものとは一変し、希望がさした、いや決意に満ちたいい顔をしていた。


 

 

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