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さて体感時間的も現実時間的にも一瞬なわけで飛ばされたのはトンネルのような仄暗い空間だった。
「って……ココドコ?」
思わず椋が思考を口に出してしまう。3人の目的地は少なくともこんな埃っぽいところではないのは確かだ。
「ここは地下通路。学園の下。地下鉄を避けるように張り巡らされた通路。我々能力孤児が住む世界、地下学園へと通ずる道です」
Ⅴが静かにそう言った。隠す様子もなくそう言った。
少々不思議に思っていたことはあったのだ。
能力孤児は衣食住そして教育を提供してもらう代わりに学園の犬として働く存在だ。しかしこの学園に来て一ヶ月、能力孤児達が授業を受けている所どころか校舎棟でその姿を見かけたこともない。
椋が知っている限りでは『二点間推移』のⅤ、『仮面舞踏』のⅨ、確認の間の能力者のコピーを作り出す能力者は通称Ⅲ。そして蒼龍第7寮寮監、青山が口にした0という能力孤児。
たったの4人しか能力孤児の存在を知らないのだ。しかもそのうち2人は会ったことすらない。
一体どこでどのように生活しているのかなんとなく察しがついたような気がした。
黙り込む3人の意識をⅤが手を二度ほど叩くことで一点に集中させる。
「とりあえずお話はこの辺にしときましょう。ここに飛ばしたのは人目を避けるためです。まずは田口さんから麒麟の校舎へ飛ばします。HR教室のある校舎は麒麟第一普通校舎ですよね?」
「えっとはい麒麟第一普通校舎です……はい」
やはり丁寧語が実にぎこちない懋だが、それを肯定し、オネガイシマスと硬い一言。
それを聞いたⅤが首肯すると、彼は両手を懋に向け二点間推移を開始。ものの数秒足らずで懋とⅤの姿が消えてしまった。
残された椋と真琴。仄暗いお互いの顔が確認できるギリギリの暗さ。
「地下学園ね……」
「やっぱり気になるか?」
先程Ⅴの口からその単語が出た時から真琴は何か考え事をしているような表情を浮かべていた。
「そうね……椋は知ってたの?」
「いいや、さっき初めて聞いた」
嘘偽りない事実だ。彼も隠しているわけではないようだが、それでは逆に触れていいところなのかいけないところなのかの判断が付けにくい。
彼が帰ってくるまで約30秒ほどではその程度の会話しかすることができなかった。




