罪機崩し3~潜入、白虎~ 1
2062年5月28日 所 麒麟第一寮自室 時 午前7時前
いつものように朝を迎える。昨日のエンヴィの襲撃などなかったかのような普通にいつも通りな朝。
「おはよう辻井君」
いつものように新田の優しい声が聞こえてくる。結局あのあとは皆適当に解散し、椋もいつものように就寝したのだ。
「ああ……おはよう……」
「そういえば学校はどうするんだい?」
「何が?」
「何がって……柊さんと七罪結晶探しに行くんじゃ?」
そういえばそうだったな……。などとまだうまく回らない頭で思い返す。
特に計画性はなく、真琴には身体を休めておけとしか行っていなかったはずだ……。さっさと考えとかないとまた真琴に怒られるな……と鬱っぽく考える。
「どうしようかな……とりあえず白虎の制服だけ二人分取り寄せとくか……」
左腕にOLを装着し、起動させる。連絡先はⅤ。やはり彼を便利なものとして使うのは気が引けてしまうが、こんな時間にこんな内容のことに取り合ってくれるのは彼しかいないだろう。
それぞれのパーソナルデータをもとにし、サイズだけ合わせて白虎の制服を持ってきてください的な内容のメールを送信する。
彼のことだ、3分としないうちに送ってくるだろおう。そう思ってとりあえずベッドから起き上がると、新田のもとに向かい朝飯の手伝いをする。
すでに出来上がっている味噌汁をお椀3つに移し、ご飯も3人分用意し、部屋の中央にあるテーブルに運んだ。
そんな時、不意に部屋の中が謎の結晶光に包まれる。もういつものパターンで慣れてしまった少々派手なⅤの登場だ。
彼に二点間推移は汎用性に優れ便利な一面があるものの、弱点として自分自身が絶対に移動してしまうというものがある。
なので部屋にⅤが来るとわかれば彼の分までご飯を用意し、よそっておくのが礼儀というもんだろう。
「辻井様、こちら白虎の制服です。女性用ということは七瀬様も連れて行かれるんですか?」
「いや、今回は真琴だよ……。アイツの能力があれば七罪結晶の位置が分かるっぽいんで、エンヴィに襲撃されてしまう前にこっちで回収しようってことになって……」
「なるほど……それはいい考えなのでしょうけど……なんで最初からそうなさらなかったんですか?蒼龍への潜入も必要なかったんじゃ?」
そんな普通に誰でもそう思うであろう疑問を投げかけられ、少々回答に困ってしまうが、もちろん逃げる。
「それをいっちゃぁ反則でしょ……」
○~○~○~○
少々食卓を囲むメンバーが個性的な気もするが、いつものことなので気にせずお味噌汁を啜る。
Ⅴは食事の時だろうがなんだろうが決してローブを取ろうとしない。
Ⅸのあの顔面の傷を見てしまい能力孤児の抱える問題の大きさに気付かされてからはそのことに触れないようにはしている。
「とりあえず今日は俺と真琴は学校休むよ」
先程その旨の連絡を真琴に送り、沙希や契たちが登校した後に部屋に白虎の制服を取りに来てもらい、授業見学と称して各部屋を周り探す。大体今回の作戦はこんな感じだ。
すでに校長にも入学確定の新入生が授業見学に来るという設定をでっち上げといてくれと頼んでおいた。
「無茶はしないようにね。柊さんも一緒にいるってことを忘れずに」
朝食を食べ終えた新田が箸を置き、食器をまとめながら言った。
「そうだね……責任重大だ……」
そんな椋も食器をまとめ、キッチンの流し台まで持っていく。
自分の食器は自分で洗う。それがルールだ。洗い物をしながら、頭に残った先ほどの新田の言葉を脳内で反復させる。
本当に自分が戦闘になったとき彼女は何処かへ避難してくれるだろうか?そのまま成り行きで一緒に戦うなんてことになりはしないだろうか?100%否定しきれないのが現状である。
もしそうなった場合に彼女を助けられるのは自分だけだ。そう、責任重大なのだ……。
「とりあえず僕はそろそろ登校するよ。気をつけてね……」
自分のベッドからカバンをとりゆっくりと移動しドアを開けそう言った。
「うん、いってらっしゃい」
なんだか同級生を見送るとは実に不思議なものだ。
とりあえず部屋に残ったⅤに一応頼んでおく。
「真琴が来たら頼まれついでに俺たちを白虎の校舎まで送ってくれないかな?」
「ええ、もちろん構いません。流石に移動中を誰かに目撃されてはどうしようもありませんからね」
若干らくするために提案しただなんて彼の前では決して言えない。そんな目撃されるということを一切考えていなかったなんてことも彼の前では決して言えない。
しばらくⅤと雑談し十数分たった頃に部屋のインターポンがなる。もちろん応答せずとも勝手に入ってくることなど百も承知なので放置だ。
案の定ドアを勢い良く開け放ち真琴が侵入してくる。
「なんだかサボりってドキドキするわね!!」
鼻をフンッと鳴らし興奮しているのが目で見て分かるような顔をし、こちらに近づいてくる。
「おはよう椋、Ⅴさん」
とここになってようやく挨拶だ。
「おはよう真琴」「おはようございます柊さん」
先の発言の前に挨拶を入れても良かったんじゃないか?と心の中だけでツッコミを入れつつも彼女をテーブルに誘導し、お茶を入れる。
少しワクワクした表情を見せる真琴。
「真琴、お前実は楽しんでないか?この状況……」
椋が真琴に問う。いや、これは愚問だった。楽しんでないか?ではない楽しんでるだろ、だった。確定だ。
「そっ……そんなわけないじゃない!」
「そうか?」
と少々訝しげな表情で真琴を見つつも、本題に映る。
「はいこれ、白虎の制服」
「おぉぉ!!」
真琴に先程Ⅴが持ってきてくれた服の片方を渡す。やはり目が輝いている。
「何がおぉぉだよ……」
そんな椋の発言に真琴が顔を赤く染め一度わざとらしく咳をする。
「どこで着替えればいいの?流石にこことは言わないよね?」
「ここじゃダメなのか?」
椋がそんな素の質問を飛ばす。男子らしい発想なのか、正直着替える場所などどこでもいい。トイレだろうが風呂場だろうが誰も見ないのなら関係ないだろう。
「ッ……椋!アンタ本気でいってんの?」
「まぁ個人的にはどこでもいいけど、どうしても気になるなら真琴の部屋で頼む」
女子目線の気持ちを察することができない椋はとりあえずそんな提案を送るが、それもまたできないのが現実だ。
「もしほかに欠席している生徒がいて柊さんの白虎の政服姿を見られてはいろいろまずいと思われるのですが……」
Ⅴがそう呟く。彼も言いにくいのだろうがそれを真琴に向けて発した。
「仕方ないわね……ちょっとトイ……お手洗い借りるわよ!」
そう言って彼女がトイレに向かい歩き出す。なぜ言い換えたのかは不明だが。
「俺も着替えるか……」
彼女がトイレで着替えを行っているあいだに自分も着替えておかねば時間が無駄になるだけだ。
少しⅤが気になったのも事実だが、彼が手で『お構いなく』的なサインを送ってくきた。
なんだか個人に見られながら着替えるとは不思議な気分だ……。




