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15

 

  「椋!!沙希も大丈夫だったの?」

 

 第一寮の門をくぐり最初に聞いたその声はそれだった。

 心配どころか泣き出しそうな顔でこちらにやって来る。


 「ごめん沙希、真琴を頼んでいいか?」

 「うん……後で説明してよね……」


 まだ薄くだが意識がある真琴を背中から降ろし、右手を沙希の右肩にかけ、真琴を預ける。


 「じゃあ俺ちょっと用事あるから!とりあえず真琴は寝かせといて!すぐ戻ってくる!」


 それだけ言い残し一度自室に戻る。


 「椋………………」


 呼び止める気はないようなその声に椋は振り返ることなく走り始めた。


 

 先に帰っていた新田と懋からあれからの話を聞く。

 彼らが寮に着くまでにもうかなり契約者エンヴィの話は広まっていたそうだ。


 なにせ寮間闘技は学園内全土に中継されている。当たり前と言えば当たり前なのだが、学校側が途中で規制を敷き閲覧不能にはなったものの、エンヴィの乱入まではすべて放送されてしまっていた。そう、尾裂狐も……。

 問題はそこなのだ。尾裂狐が映ってしまった以上、“エンヴィの正体は玄武寮1年黒崎泥雲だ”ということが学園内全体で統一され導き出された結論になってしまう。

 天然結晶でしか成し得ないとされている召喚(サモン)系能力、特徴的なあの美しい黒狐。常軌を逸した行動もそうだ。ナチュラルスキルがあそこまで他人と一致するわけがない。それが七罪結晶(ギルティマテリアル)をしらない一般人の考えだ。

 もし問い詰められた黒崎がその存在を学園内で公にしてしまえばとんでもない騒動が起こる可能性さえある。

 やはりどうにかしてそれだけは止めなければならない。

 

 しかし今問題は眼前に迫っていた。


 「椋、お前は何を隠してるんだ?」


 一通りの話を聞いた後の懋の第一声だ。前にも一度あった彼の真剣な表情。丁度よく契はいない。話せないことはないのだ。


 「辻井君……」


 新田が心配層に細い目で見つめてくる。今、自分の心情を一番に理解してくれているのは新田だろう。

 

 「あのエンヴィってやつはお前のこと知ってたよな?目的だかなんだか知んねぇけど椋はそれを知ってた。それにあの狐……。玄武の黒崎の召喚獣にしては何かおかしいっていうか……どう言っていいかわかんねぇけど椋が俺っちになにか隠してるってことはわかるんだ……」

 「それは……そのだな……」

 

 回答に詰まる。懋の指摘が的確だからだ。

 無理だ。逃げられない。確信を持ってそう言える。


 「長くなるけどいいか?」


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