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先に仕掛けたのは仲俣。
2年のプライドを見せるといったところか、1年の磯山に対しても本気で挑んでいるようにも見える。
シーグリーンの結晶光を右拳に集中させ磯山との距離を一気に詰める。
それに対して一切動じる様子を見せず磯山は静かに立つ。
『磯山動きを見せません!!圧倒されているのでしょうか?どうでしょうイマイチさん?』
『いや、よく見てください。あの一年全身に結晶光を纏ってますよ!余裕を見せつけているんでしょう!ついでに僕のことを苗字で呼ぶのはやめてください。僕はイケイケです』
とコントのような実況を解説を見せる朱雀の3年コンビだが、ふざけているように見えて言っていることはかなり的確だ。
磯山は仲俣を挑発している。真琴の『可視化の片眼鏡』視点から見るとそれが丸分かりのようだ。
仲俣の素性は不明だが、今見た感じ実力的には磯山の方が上らしい。
磯山はそれをえ理解しているかのように余裕綽々と仁王立ちで構えているのだ。
一切抵抗を見せようとしない磯山に遂に仲俣の拳が届く。しかしそれ以上が起きない。
拳は磯山に接触したところで止まりそれ以上ピクリとも動こうとしない。
「おォォォォ!!」
叫ぶ仲俣の拳の結晶光が一層輝く。結晶光がそのまま右拳に籠手のようなものを現出させる。力が増したように見えるがそれでも一切磯山は動かなかった。流石防御性能強化といったところか、純粋な肉弾戦で磯山が押されることはないのだろう。
「力負けしてますよ先輩?」
そう言って磯山が拳を構えそのままがら空きとなった右脇腹にフックを繰り出した。抉るようにめり込んだ拳は嫌な音を立て仲俣を吹き飛ばす。
「あ゛ぁぁ」
嫌な悲鳴を上げ悶える仲俣。
それを客席側で冷静に見つめる真琴が考察を始めている。
「凄いわねあの蒼龍。まだ能力の展開してないのに自分の防御の性質を帯びた結晶光だけでここまで戦うなんて」
「それって凄い事のか?」
真琴が珍しく感心しているのを見て思えわず訪ねてしまう。
「けっこうね。アタシみたいに流れを感じれる人間ならコツとか掴みやすいんだけど、それ以外は何年も時間かけてやっとて感じね。それにあの蒼龍、自分の結晶光の性質まで引き出せてるんだから尚凄いわ……要注意ね」
少し興奮気味に鼻息を鳴らし真琴はOLのメモ機能に必死に大量のデータを打ち込んでいくのだった。




