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昨晩帰ってきたばかりでこの寮から一歩も出ていなかったためか、地味な開放感のようなものを味わいながら、黄色の街を闊歩する。
「右手にあるあのラーメン屋、ちょっと値が張るけどすっごく美味しくて人気だよ。それにあそこのうどん屋、鍋もやってるし美味しい、でも何故か客が少ない。両方おすすめだから一回言ってみるといいよ。それに………」
いやはや、麒麟寮の案内を頼んだのは自分なのだが、彼の行く道をついてく中紹介されるのはすべて飲食店ばかりである。容姿が物語っているとも言えなくはないが、なんだか想像通り過ぎて途中途中に笑みがこぼれたものだ。
「そしてここが先の弁当屋、[口福卿]。昨日の物を売るって言っても品質だけは完全に確保されてるからみんな安心して購入できる。学生の味方だよ」
そう言って指をさす先。
一言で言うならばありえない、だ。
指しているのは人、視界に広がるほとんどが人で埋め尽くされている。
全て弁当を買いにきた人間だろう。その安さからだろうがそれでも信じられない人数だ。
「寮内に同系列の店が2件あるからこれでも2分割されてるはずなんだけど、だいたいこれで500人かな」
冷静な顔でそう言う。
道を塞ぎかねない寮の人数がせめぎ合っている光景がなかなかの暑苦しさを醸し出している。
「おっしゃぁぁぁ!!」「GETだZE!!」
的な声がだんだんと飛び交ってくる。女子も混ざっているため暴力事件のような感じにはなっていないが、それでもこれだけの人数がいれば危険だ。
「あれ、全員に当たるの?」
「そんなわけないじゃないか……」
はははとふくよかな料理系男子が苦笑を浮かべていた。
こんな光景を見ていると尚更この新田の存在が実にありがたく思えてくる。
「おっ、椋じゃん。弁当会に来たのか?」
ぱっと後ろに振り向くとそこには懋の姿がある。
「いや、俺は新田くんの手作り弁当あるから」
何気なく発した椋の発言に懋がにやぁっと嫌な笑みを浮かべながら問うてくる。
「お前らやっぱりできてるのか?毎日毎日……」
「いやいやできてねぇよ」
その間約1秒である。
今度は右手の甲を口元に当ておねえポーズをとり小さな声で問うてくる。
「どっちが受けでどっちが責めなんだ?」
「だからデキてねぇって」
強いて言うなら受……ゲフンゲフンッ。
再び1秒で否定、もう一秒で無駄な思考を働かせた。




