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 「そういえば俺も弁当買わなきゃな……」


 今思えば弁当がない。向こうでは少ないバイトの給料でなんとかやりくりしてきたが、それは蒼龍寮での話だ。あの寮を出た今、椋は失業軽く失業状態。もちろんというか母からの仕送りなんて感動物語は起きる訳もなく、先日椋の薄っぺらい財布に残った最後の311円を大久保のために使い、悲しくも残りは11円という現実である。

 

 その悲しくもほとんど役目を果たしていない財布から11円を取り出し大きくため息をつく。


 「まぁ、そう落ち込まないで…辻井くんの分の弁当も作ってあるから」


 そう言って新田が黄色い布に包まれた二弾と思われる弁当箱を手渡してくれる。

 

 「新田くん……君は…」

 「いやいや僕のを作るののついでだから気にしないでくれよ」


 流石はぽっちゃり系料理男子、新田恭介だ。綺麗好きで料理もできる。彼が女性だったらこれほど素晴らしい人間はいない。彼女にしたい女性トップ10入り間違いないだろう。


 「ありがとう……そろそろ俺たちも行こっか」

 「もう出るのかい?まぁ僕は構わないけど…」


 不安は消え去ってはいないものの、どうせこの部屋にいてもすることはない。


 「いつも沙希と真琴とは一緒に登校してるのかな?」


 素朴な質問である。Ⅸと同じように、椋自信もⅨとの違いを見破られてはいけないのだ。出来るだけⅨに合わせる。

 

 「そうだね……日によって変わるかな。さっきみたいに二人もお弁当を求めて早く出るときもあるし、他の女友達と登校してる時もあるしバラバラかな…」

 「なるほど…なかなか難しいな…」

  

 少し悩むが、わざわざ今から連絡を取ってまで一緒に登校することはないだろう。そんな理由(わけ)で普通に新田とふたりで登校することとなった。


 第一寮を出て校舎棟に向かうのには約10分程度しか時間を要しない。

 

 「そうだ新田くん、少しでいいから麒麟寮を案内してくれないか?」

 「ああ、もちろん構わないよ。いつか使うかもしれないし例の弁当屋さんも案内するよ」


 即興麒麟寮超短時間ツアーが開催されることになったのだった。


 

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