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一通りボコボコにされたところで、とりあえず真琴を落ち着かせる。
これは受けるべきバツなのである!!
とまぁ彼女も、「椋は女子寮襲撃してまで回収するような人間じゃないし」とまぁそこらへんは理解してくれていたようだ。
確かに一ヶ月何の成果もなしというのは待たされている側からしたら苛立つものなのかもしれない。
時間が時間なのでそろそろ校舎棟に向かい出発しなければならないのだが、少々気が重い。
これまでずっとⅨが代役を勤めていてくれた授業をこの五日間、引き継がなければならないからだ。
授業は必修科目と選択科目に分かれていて、1年度は大半を必修強化が占めている。
Ⅸは必修科目をみんなと受け、椋は他のメンバーと重ならない選択科目だけを辻井椋として受けて、必修科目は蒼龍の五莉貞として受けてきた。
故に知らないのだ。麒麟の授業風景とかその他諸々を。不安しかない。
それでも時とは無慈悲に刻まれ続けて行くものだ。
真琴が帰った後、ご飯を食べ終わった食器を洗っていると部屋の戸がノックされる。返事を送る前に向こうから一方的に扉越しでも聞こえるような大声で誰かが叫ぶ。
『椋、先行ってるぞ!!』
それだけ言うと扉の前にいた誰かは走り去っていく。声からしておそらく向かいの部屋の住人、田口懋だろう。
それに続くようにもうひとつの足音。
『僕も先に行ってるよ!!』
おそらく永棟契。しかしまだ少し時間には余裕があるはずだ。
「なんで二人こんな早く出てるんだ?」
蛇口から流れ出る水を止め、手近にあった布巾で手を吹きながら新田に尋ねる。
「そういえば辻井君が平日にここに居るのは初めてか……」
「ま、まぁそうだね…」
「麒麟寮にとある弁当屋さんがあるんだけど、平日の朝は昨日の売れ残りを三分の一以下の値段で売ってくれるんだ。だからああして毎日みんな並びに行くんだよ」
「ほー……」
麒麟寮のことは知らないことのほうが多い。なんというか少し悲しい面があるのは事実である。
ほとんどの日にちを蒼龍で過ごし、向こうでは充実した生活を送れたのものの、麒麟ではそうではない。
しかもそれを取り戻そうとあがいたところで後5日で再びこの寮を去らなければならないのだ。自分から選んだ道だといえど、虚しさというのか悲しさというのか、堪えられないものの方が多いと実感させられた。




