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話し合いは長くは続かず、5分程馳葺が後悔の涙を止めるまで部屋に留まった後、すぐに部屋を出た。
現在は蒼龍第七寮の寮監室、青山雪人に今回の一件を伝えに来たのだ。
いつもの様に青を基調とした襖に設置された呼び鈴を押しこみ青山を呼び出す。
もう時間が時間なため出ない可能性も考えたが、数秒としないうちに青山の返事が返ってくる。
「失礼します」
襖を横にスライドし、寮監室に入ると、彼は椋が来るのを予想していたかのように湯気の立つお茶と茶菓子の準備が卓上に整えられていた。
「待ってたよ伍莉君、まぁ話したいことはわかってるつもりだよ。まあ座りなよ」
そういって促されるまま青山と対面するように正座し、まだかなり熱を持っている湯呑を受け取り、そのまま一口啜る。
「出ていくのかい?」
かなり端折られた質問ではあったが、椋には何に対する質問なのかすぐに理解できた。
「はい…明日にでも……」
「そうか…さびしくなるね…」
本当にさびしそうな表情をし、青山が俯く。
「そんなこと言わないでくださいよ、行きにくくなるじゃないですか…。それに、このOLがあればいつでもここに来れるんですから……」
このOLが椋の手元にあれば、だ。おそらく、この七罪結晶回収ミッションを終えるとこのOLは校長である村本重信に返却することになるだろう。正直に言えばいつまでも手元に置いておきたい。
これがなければ椋は伍莉貞でなくなると同時に蒼龍との関係も完全に断絶されてしまう。
このOLはいわば絆なのだ。ありえないとされている異寮間同士をつなく希望なのだ。
手放したく無いに決まっている。
「ああ……ごめんよ…何か手伝えることはあるかな?」
それ自覚したらなお手放したくなくなるのが人間の本能というものなのだろう。青山の言葉で思考が脱線しているのに気がつき、無理やり軌道修正する。
「え…あ、いや大丈夫ですよ、そんな大荷物ないですし。能力孤児の力を借りることになるとは思いますけど…」
そう、Ⅴの力があれば対象物の二点間推移が可能なのだ。
ほとんどの家具は常設品なので引っ越しなんて5分あれば物音立てずに終了する。
「能力孤児……0……」
「なんですか、それ?」
つぶやくように言った青山の発言に少し気になる部分はあったものの「何でもないよ」と青山が誤魔化すのであえて聞かずに放っておく。あの様子か見て聞かれたくないことだという事はあからさまだった。
その後、蒼龍第一寮で起きたことや飯田から聞いた犯人の特徴など、記憶に残る今回の事件はすべて話した。




