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飛び出した先で『光輪の加護』、3段階目の効果で足場を現出させ、それを踏み込み一度さらに上へ跳躍する。
いつもと変わらぬ日常的なこの青い街。静けさと月明かりが町全体をつつんでいる。
この街、いや、ここら一帯を見渡せたらそれで十分。微妙な高度まで飛び上がり、あの公園を探す。
第七寮と第一寮の間(どちらかといえば第一寮よりだが)に存在する、その公園に向かい左足の光輪を消費することによってもう一度跳躍、そしてきれいに着地する。
「なんだっ……これッ!!」
目の前の光景は常軌を逸していた。
今日の夕方までここにあったはずの公園が瓦礫の残骸だけを残し消滅したといっても過言ではなかった。
地面は大きく抉り取られ、植えられていた植物たちは引き裂かれ、唯一目立っていた噴水は崩壊しだらしなく水を垂れ流しにしている。
「先輩ッ!!」
叫ぶ。周囲一帯に響き渡るような大声で、この荒れ果てた地で。
「伍りくん…」
小さい、が確実に聞こえた。彼女はこの公園のどこかにいる。
「先輩!!どこですか?」
先程よりも大音量で叫び、今度は耳を澄ませ、彼女のいる位置を声の方向を頼りに探すことにする。
「そんなおっきい声出さんくても聞こえてるよ…」
彼女も先程より少し大きくなった声でそんなことを返してくる。
(こっちか!)
月明かりが照らす公園と言えなくなってしまった荒れ地を走る。足場がぼこぼこで不安定な姓か何度も躓いてしまう。数メートル先に横たわる少女を見つけ、そこに転がるように歩み寄る。
「先輩!怪我はありませんか?」
「怪我なんてそんなことどうでもいいんや……すまんなぁ伍莉君…君の大切なモン、アイツに奪われてもうた…」
そういって彼女は震える右の手を自力で持ち上げ空中を指差した。椋もその方向に首を曲げるがそこには誰もいない。
「そんなことって…それこそそっちの方がどうでもいいんです……」
「ホンマに……君はのろまやなぁ……」
だらんと落ちそうになった彼女の右手をしっかりと握る。
「先輩、追っかけてきた奴の特徴とかわかりますか?」
「か…確証はないけど何となくは解ったわ…」
「誰なんですか…?」
「君たちの入学の時に開催された各寮対抗試合……あれに出とった玄武…の代…表」
そこまで耳に入った時点で頭が沸点に到達しそうになる。
「黒埼泥雲かもしれん……仮面を……黒い…狐…い………」
とぎれとぎれの言葉を残し彼女は気を失った。
外傷は一切と言って良い程無い。彼女の体は先ほどまで走っていたせいか汗だくではあったがそれ以外の異常は一切見つからなかった。すぐにめざめるであろうと確信を得た椋は彼女を背負い、最寄りの病院まで連れて行くことにする。一応心配だ。
椋は彼女を運びながらも常に思考を張り巡らせ、彼女の最後の発言の考察を初めていた。




