24
「待ってください!!先輩!!」
叫ぶように大久保小崋を呼び止める。しかしその声は彼女に届かない。
「なんやって?伍莉君、ウチ急いでるからすまんな!!」
そう言ってそのまま走っり去っていく。
猛烈なスピードで第一寮に向かい帰ろうとする彼女。かなりの距離が開いてしまっているため、走っても追いつかないことは目に見えている。
「まっ……………」
呼び止めなければならない。
しかしその一歩を踏み出すことができなかった。大事な要件なのだ。《暴食》自体は未だに被害者を出しておらず、反応が現れては消え、現れては消えを繰り返しているだけの沈黙状態。安全とまでは言えないが特別恐ることはなかった。
明日すればいいことを今この状況、無理やり彼女を追いかけ呼び止めることで多大な迷惑がかかることだろう。
それを行動に移すための勇気を椋は出せなかったのだ。
「…………そうだッ!連絡先!!」
昼間に交換したアドレスを使い彼女にその旨を知らせておこう。これが今の最残の策だ。
そう自分の身を守るように思い込んみ、実行に移す。
急いでOLを起動させる。今大久保は走っている。この前自分で経験したが走りながら思考で発声するというのはなかなか集中力を必要とする。簡単に言えばかなり難しい。
こういった大事な要件は口頭で伝えたいが仕方なくメールソフトを起動する。
彼女にそれが|《七罪結晶》《ギルティマテリアル》だということは決して言わない。アレは決して一般人が知ってはいけない物、校長、村本がそう言っていた。一般人の椋が思えるのだから間違っていない。
先輩が腕に装着している黒い腕輪、僕にとって大切なものなんです。できれば返していただきたいのですが
そんな感じの簡略的な文面をメールで打ち込み、彼女のOLに送信する。
送信完了を伝える無機質なメッセージウィンドウを閉じ、仕方なく第七寮ヘ帰寮することにした。
今日、これ以上回収の手段が存在しないからだ。
この学園、各寮に存在する第一寮から第十寮。それぞれの寮のルールを作るのは寮監の仕事だ。
例えば麒麟第一寮監山根美弥、彼女は自分に有利、というよりも生徒をうまく使い自分が楽をするためのルールをよく作る傾向にあると聞いた。
例えば蒼龍第七寮監青山雪人、彼は全て生徒任せである。第七寮の生徒代表屋良又吉を議長とする生徒会議ですべてをきめるという、放任主義というかそんな感じなのである。
そして蒼龍第一寮監、名前までは知らないが、先刻聞いた話ではとてつもないイロモノ寮監といえよう。彼女が必死に帰寮する理由も頷ける。
「とんでもないことになりそうだな…………」
ぼそっとつぶやきながら夕日が映える街を第七寮に向かい歩いていくのだった。




