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「そもそもやなぁ伍莉君。こんな可愛い女の子が連絡先交換してくれって頼んできてんねんで?それって普通男の子側のセリフやと思わへんのかいな?」
「いや……あの……その……」
「いやでもあのでもそのでもないんや!!女の子にこんな恥かかせて……男の子として恥ずかしいと思わんのかいな!?」
一度自分が女性立場としよう。
椋(女)は後輩(男)に様々ないちゃもんと口実で連絡先の交換を強請った。
しかし後輩(男)は(どうせ飯を奢らせようとしているだけだろう)と決め付け、遠まわしに似たようなセリフを放った。
それを休日昼間の街中で。
さて恥ずかしいのはどっちだろう?
間違いなく先輩である椋(女)だ。
状況としては確かに女性側の方が確かにとっても恥ずかしいかもしれない。決死の告白をそんな理由で緩やかに流されてしまったのだからとっても恥ずかしいことだろう。
しかし待て。大久保小崋という女性、少なくとも一連の行動に一切の恥じらいを見せず、伍莉貞という男に恋愛感情を抱いている様子も見せていない。ただ今日出会ったスパゲッティの大食いに無謀にも挑み失敗しそうになっていた少年なのだ。そんな要素もないだろう。
必死に必死に思考をはりめぐらせ彼女の行動理由を読み取ろうとするが、根本的には馬鹿な椋の頭でそれを解決することはできなかった。数分という沈黙の時間が流れた後に大久保がぼそっとつぶやく。
「なぁ伍莉君?」
「な……なんでしょう先輩?」
「嫌やったか?」
彼女の突然の問いかけに少々戸惑いつつもこれまでの思考を切り離し応答しようとする。
これまでとは違い少々うつむき気味で暗さを見せる彼女から、少々の負のオーラのようなものがにじみ出ている気がする。
「いやっ!決して嫌なわけじゃ……でもなんで俺の連絡先なんて?」
そんな椋の質問に大久保は大きくため息をつく。それと同時に先ほどの暗さも吹き飛んでいったような気もする。
「はぁ……話してておもろいなぁって思う人と連絡を交換すんのはおかしいんかいな?」
「えっ……」
とここで椋はそもそもの勘違いに気がついてしまったのだった。
椋が沙希や真琴、契や懋に連絡先を聞くのに理由は必要なのだろうか?
そこを根本的に間違えていた。
いつでも話したい、話していて楽しい。そんな人がいたらその人と連絡先の交換ぐらいしてもおかしくはない。そこに気が付いていなかったのだ。
「すいません先輩、俺とんでもない勘違いしてたみたいで……」
再び今度は彼女の行動理由というか人間の根本的な部分をある程度理解した上で謝罪するのだった。




