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「なんや少年?困りごとか?」
残り時間5分を切ろうとしている中ふとそんな声が聞こえた。
突っ伏した頭を上げ、その声の方に顔を向ける。
いつの間にやら自分の席の向かい合った椅子にいつの間にか女性が座っている。
「笑うなら笑ってください……。俺にはもう無理なんです……」
目の前の巨城はいくら削っても消滅という言葉を知らず、少なくなっていくという実感を得る暇もなかった。そんな中テーブルに突っ伏している少年を見れば誰でも笑ってしまうだろう。
「いやいや、そんなことを言いに来たんとちゃうんや。ウチにもそれ手伝わしてくれんやろかなぁと思ってな?」
ニコニコスマイルの小柄な関西弁女性。上級生だろうか?その小さな身体にそれほどの容量があるとは決して思えぬのだが……。
「あなたは?」
「ああウチか?ウチは第一寮2年大久保小崋っちゅうねん。君は?」
「第七寮1年伍莉貞って言います……でも先輩……先輩こんな量食べられるんですか?」
当然の疑問を投げかけるが、少女にはそれが癪に触ったようだ。
「疑っとるんかいな、このウチを?」
「いや、疑ってるわけではないんですけど」
「なぁに、任せとき!こんなん3分あれば余裕や!」
どっからその余裕が出てくるんだ……。そう思いつつもゴリマッチョな店長の方を見る。
これを認めるかどうかはこの巨漢にかかっている。
「3分だ。3分で食えたら小僧、お前の分としてカウントしてやる」
寡黙そうな店長から発せられた渋い声に涙がこぼれそうになる。いろんな意味で。
この大久保という先輩には一切の期待ができない上に、店長は椋がもう無理だということをとっくに悟っていたのだ。涙が出ないわけがない。
ポケットの311円を握り込み祈る。
「伍莉君やったか?まぁうちに任せときいや!」
そのセリフとともにゴリマッチョな店長の上のカウントダウンが赤く染まり残り3分を告げるアラームが鳴り始めた。
そしてそのアラームが鳴り響くと同時に大久保の手に持ったフォークがうねりを上げたのだ。
その両手に握られた三又のフォーク。制服のブレザーが汚れることなど気にせずに繰り出される双擊は目にも止まらぬ速さで巨城を削っていく。
1kgだぞ?1000gだぞ?1000000mgだぞ?せっかく言うなら2.2ポンドだぞ?
眼の前の光景を疑うとはこのことだ。
それだけの質量の物体がこの小柄な少女の胃袋の中に2分30秒で詰め込まれ、残りの30秒は冷水を口に含み、さらに汚れた口周りを吹くという余裕の行動に当てていたのだ。




