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こみ上げてきた嘔吐物だけを胸、いや胃にしまいこみ、テーブルに突っ伏す。
「ギブアップなら早めに言えよ!店長その言葉聞くまで絶対にそこから動かないんだから!」
パスタの盛りつけを追え他のテーブルの客にそれを出し終えた馳葺がそう言って再び厨房に戻っていく。
「なあ秀……」
「金なら貸さねぇぞ!!」
「まだ何も言ってない……」
最終手段が手のひらからするすると抜け落ちると、目の前の巨城がさらに巨大に見えてくる。
(我ながらこれは愚行だったか……まさかここまでの強敵とは……)
『本当に愚かな奴だ……我はあれだけ忠告しただろう……』
40分程前、入店前に確かに止められた。止められたのだが……。
(なあフール……おまえは目の前に札束があれば飛びつくだろ?)
『我に金など必よ……』
(飛びつくんだよ!!それと同じことがあの時の俺には起きてたんだよ!)
『何が言いたいかはわからんがまあ頑張るがいい。心から応援しておくから我はもう寝るぞ……』
(おい!フール!!ちょっと……)
と頼みの綱?フールにまで見捨てられ巨城を前にもう一度フォークを握る。
「諦めて……諦めてたまるか!!」
逃げ出したい気持ちを必死に抑えフォークという名の剣を手に聳え立つ巨城型モンスターに斬りかかる。フォークが送まで届かないことなど気にせず、巻き取り、掲げ、頬張る。
これでも量が一切変わる様子がない。こいつ増殖でもしてるんじゃないだろうか?そんな敵に勝てるわけがない……。
「もう無理なのか……」
「今頃気づいたのかよ……」
いつの間にか椋の横に立ってコック帽をおろしていた馳葺がゴリマッチョ店長に一礼し、そして帰っていく。
「俺もう今日のシフト終わったから先帰るな!頑張れよ貞男!」
「待ってくれ秀……」
「だから金は貸さねぇっていてるだろ!!」
店のドアを揺らし、馳葺が店内から姿を消す。店長の眼力が増す中振り絞って出た言葉。
「まだ何も言ってない……」
果てさて、馳葺秀斗の裏切りによりこれはいよいよ危ない展開になってきた。
あれこれしているうちに、店長のOLによりポップアップされたタイマーの制限時間は残り10分を切ろうとしている。
残量は約1・2kgといったところだろうか。その巨城の内部にはミートソースと絶望しかなかった。




