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とりあえずどうやって玄武のやつらとのコネを作るかだな!!
などと大声で叫びまわっている長瀬を見て一安心する。
彼、いや殆どの蒼龍寮生は椋が麒麟寮生だということを全くと言っていいほど知らない。というか知られてはいけないのだが。
この一ヶ月と少し、この学園で過ごしてわかったこと、いや、学んだことがいくつかある。
まず、寮同士の仲が異常に悪い。
基本的に他寮の生徒と仲良くなる(入学前に同じ学校だったとかそういうのは別だが)やつなんてのはいないのだ。
椋も何度か見てきたが、日頃校舎棟などの中立域で行われている寮土戦などで争っているのだから無理もないと言ったら無理もないのだが。
戦闘を繰り返すことで親密になり、再び戦うようになる。とまあこんな感じで戦友みたいなノリの事はよくあるが、それ以上に進むことは決してない。原則として他寮には侵入できないという決まりなうえに、寮以外の娯楽施設はあるといちゃああるものの中立域のためドンパチが絶えない。故にゆっくりすることなどできないのだ。他寮の生徒と普通の友達のように笑って過ごせる場所などほとんど存在しない。校舎内では仲良くしているように見えただけでもスパイ容疑がかけられるような関係。それがすべての寮に当てはめられるのだから救いようがない。
そんななか今の椋、つまり伍莉貞は完全な蒼龍寮生である。しかし同時に麒麟寮生辻井椋でもあるのだ。
寮土戦に勝利すればどちらの寮にもポイントが入る上に、負ければどちらの寮もポイントを失う。
そんな微妙な状態なのだ。蒼龍寮内でそれがバレたらどんな言い訳を並べようがあんなことやこんなことされるのは予想がついてしまう。故に日々ガクブルで過ごしている面もあるのだから笑えない。
長瀬はいつまでもカレーパン論議で熱弁している中、彼の登場で少し冷えた頭を使い色々と考え直す。
やはり今は『暴食』の回収を優先すべきだ。『強欲』を持つ者が麒麟寮内にいて、なおかつ暴れだした。これは見過ごしていい話ではないのはわかっている。しかし今ここで出て行ってはⅨへの負担もさながら面倒なことばかりなのだ。
『強欲』の初期出現位置、そして頻度の多い出現位置は掴んでいる。被害者は出ていないためまだ間に合う。力を付け無いうちに回収する。
それを頭では理解しているのだがやはり向こうもなかなか姿を現さないのが現状である。
結晶の形状も七徳集箱のうちの一つ、temperanceと刻まれた『暴食』とついをなす『自制』のそれを見るからしていびつな形状をした腕輪だということが推測できる。
そこまでわかっているのにそれができない。それがまた苦しいのであった。




