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不意に横に並んだもうひとつのブランコがキィと音を立て少し揺れる。
「どうしたんだ?貞男?」
横から聞こえるそんな声、ここに来てから最初にできたであろう普通の友人、長瀬雄輔だ。同じ第七寮の生徒にしてこんなあまり素晴らしいと言えないあだ名をつけ始めた人間、短めの黒髪、左の目元の涙ホクロがトレードマークだ。
首を少し上げそんな彼の顔をみる。
「その呼び方やめてくれよ……ところでなんでこんなところに?」
こんな休日の朝っぱらから公園にいる人間なんて自分だけだと思っていた椋は素直な感想を述べる。
「いやさ、不意にカレーパンが食べたくなってだな、ふら~とパン屋に行こうとしたら道を走っていたトラックが子猫を轢きそうになっててな?それを助けようと飛び出したら偶然その先で子犬も車に轢かれそうになっててな……三回転ほどした先で二匹を下ろすと偶然そこにいつも行かないパン屋があってだな、これは新しい発見だ、と思い中に入ると何故かそのパン屋にはカレーパンが置いてなくてだな、仕方なくいつものパン屋に行こうおもい歩いてるとこんなところに貞男がいたって訳だ」
「お前はいつも壮絶な人生を送ってるな……」
と日頃聞かされるそんな話に少々の笑みがこぼれてしまう。
最初は全部嘘なんだろうと思っていたが、行動を共にするようになってから本当にそんな事が起きていることを知った。子猫一匹だろうがアリ一匹だろうが命をかける、それがこの男だ。
「ところで貞男、こんなとこで何してんだ?」
投げかけられた質問にどうやって返そうかと思いながらとりあえずごまかす。
「いや……えっとだな?今後の活動方針についてだな……」
「嘘つくんじゃあねぇ!」
一喝。
「朝っぱらの公園であんな負のオーラ出しながら沈んでるやつがそんなことで悩んでるわけがねえだろ!!」
とまあこんな面倒くさい奴なのだが良い奴なのだ。
「冗談だよ……」
「じゃあ何なんだ?悩み事か?」
と真剣に相談に乗ろうとしてくれる長瀬には悪いがいつもの手段で回避する。
「実はな長瀬…玄武寮にある最近できたパン屋、あそこのカレーパン、一つ300円と馬鹿にならない値段ながらヤバイらしい……」
「な……貞男!!それは本当かァ!」
「ああ、確かな情報だ……しかし俺は玄武とのコネクションが無い……どうやって手に入れようか真剣に迷っていたんだ……」
「それは深刻だな……会議をはじめるぞ、貞男!!」
要するに馬鹿なのである。




