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「それにしてもあなたは不思議な方ですね……。どうしてまたこんな事件に?」
そんな彼の言い草からして《愚者》の話は聞かされていないのだろうか?そんなことを予想しつつも曖昧な回答で話を流す。
「まあいろいろとね……。一回関わったことだから俺は最後までやり通したいというか……」
「今回は少しわけが違うとも思いますが……。まあこんな形でも再開できたことに私は感激しております」
「俺もだよ、えっと……」
「私達に名前など必要ありませんよ。二点間推移、もしくはⅤとお呼びください」
悲しい表情などはひとつもローブ越しのその顔に出てこない。しかしそれはおかしいことだ。なんなのだろう、どうして彼はここまで表情を変えないのだろう。名前は与えられた筈だ。なんでそんな囚人のように数字で呼ばれなければならないのだ……。
彼の一言で椋の中に様々な感情がうずを巻き始めた。能力孤児、彼ら全員がそんな生活を送っているのだろうか?それはあまりに残酷ではないだろうか?学園のために名前を捨て能力を貢ぐ。囚人どころか奴隷だ。
「それは…………それは悲しすぎるよ……」
「お優しいんですね……」
と、そんなⅤの横でもうひとりの小柄な少年が震えている。何か物言いたげな口元がわなわなと。
「でも……親につけてもらった名前をどうして変えるような……」
「…………けんな」
ボソッと小さな声が部屋に響く、と言うよりは耳にスッと通るような声が直接入って来る。
「……今なんて?」
そんな椋の発言とともに、もうひとりのローブの少年が叫んだ。
「ふざけんなって言ってんだ!!俺たちが親から付けてもらった名前を変えるだぁ?ちげぇよ!俺たちゃ名前を捨てたんだよ!!お前に俺達の何がわかる!!」
口元に怒りを浮かべた少年そう言って、身にまとっていたローブを勢いよく脱ぎ捨てた。
全身は各寮対抗試合の時に配布されていたユニフォームのような素材で出来た胸元に校章が刻まれている忍装束チックな姿であった。機動性を求めた末だろうか?確かに身軽で動きやすそうではあるが、些かコスプレっぽくも思える。
しかしそんな思考はすぐに吹き飛んだ。彼の素顔を確認した瞬間にだ。
「えっ………」
ローブの下。少年の顔面左側には、右目を抉り、縦に大きな傷が刻まれていた。




