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確かに先程の村本のたとえは理解りやすかった。
しかしそれはあまりにも酷い回答だった。
黒崎の場合そんな風には見えなかったが、黒崎に七罪結晶の話を持ち出したときに彼が激怒したのはおそらく結晶が回収されてしまうと思ったからではないだろうか?それならなんとなくの辻褄が合う。
本心で言えば、《魔術師》から力を回収できればそれでいいと考えていた。甘かった。話している相手の深刻さをもっと受け止めるべきだったと今になって実感した。
今は七罪結晶の破壊を優先すべきだと思える。乙姫の言っていた通り、アレはこの世にあってはいけないものだ。
「…………………………」
しばらく言葉が出なかった。山根が心配そうにこちらを伺ってくるのはわかったが、決して声をかけてくることはなかった。彼女も村本から出る覇気に押されていたのだろう。経験したからわかるが相当なものなのだ。仕方がない。
「今からでも間に合うが辞めるか?」
「そんなわけない!!」
村本から飛んでくるその質問に椋は即答した。
そんなわけがない……。現に第一寮に落ちているそれを回収するまでは確実にやめるわけにはいかない。
「そうか……。ならこれを受け取れ!」
そう言ってまた村本が何かをこちらに投げてくる。
渡されたものは灰色をした腕輪だった。少し直径の大きめなそれは先ほど村本が言っていた特別なOLだろう。
しかし投げ渡された数は3つだった。
「自分のパートナーを連れて行くがいい。しかし永棟君だけは例外だ。彼以外なら他寮の生徒でも構わん。それを持っているものは一時的に教師以上の権限を持っていることになるから保管には充分気をつけることだ」
「はい……ありがとうございます」
質問をしたのは自分だが、正直誰かと一緒に行動する気などないのだ。この学園で仲のいい生徒と言ったら、まだこの両手で数えられるほどの人数しかいない。
そしてそのほとんどが失いたくない、このミッションに巻き込みたくない大切な人達だ。
「ほかに質問などないか?」
「今のところは特に……」
「これからしばらくはそっちのOLを装着して学園生活を送ってくれ。七罪結晶に関わる情報が随時そちらに送信される。確認を怠らないことだ」
その説明を受けている最中に、椋は自分の腕に装着されている黄色い腕輪を外し、少し直径の大きい灰色のそれを腕にはめた。キュッと締まり腕にフィットしたのを確認し、元のOLのデータを新しいOLに送信していた。




