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自分の意識が引っ張られるように後退し、代わりに《愚者》の意識が前に出るのが自分自身でもわかった。視界が不自然に切り替わった。自分の視界がまるで映画館のスクリーンのように見える。これがいつも《愚者》、フールが見ている視界なのだろうか?
まるで自分の身体にマリオネットのように操り糸がついていると思えるほど不自然に動き出す。
フールは現実への干渉が可能だ。しかしそれは彼の力が万全の状態であればの話だ。
いつの出来事かなんてことは知らないがフールはその昔、前の宿主…確かカノンとか言ったか男か女かもわからないが、その人が凄かったらしく《愚者》が異常に力を持ってしまったとかどうとかこうとかで他の《エレメント》が連合を組み《愚者》、そしてカノンを崩壊に導いたとのことだった。
その際《愚者》の力はそれぞれの《エレメント》、つまり42に分散された。
そのせいで彼は不完全である。彼自身スタミナとよばれる物がほとんど存在しないのである。フールが大きな力を使用すればしばらく声も発せないほどに疲れてしまうらしい。
そのために今までずっと静かに試合を見守っていたという事だったのだ。
どうしてもこの感覚が気持ち悪い。自分の体なのに、動いていることは感覚的に理解るのに、何故か動かない。
自分の体の主導権をもったフールは、姿勢はそのまま踏みつけるように地面を蹴り、上空彼方へと跳躍する。自動ドアが尾裂狐によってまさにチーズのように切り裂かれたのを見て少しゾッとしてしまう。ガラスは砕けるのではなく真っ二つになったのだ。あそこまでの切れ味をもっているのなら人体どころかホームセンターごと真っ二つだろう。
『椋!よく聞け、我は今お前の動かせない体を無理に動かしている。身体の主導権をお前に返すときかなりの痛みを伴うだろう。苦しい思いをするということだと思っておけ』
『わかってる、覚悟してるから合図だけは送ってくれ』
『ついでに『光輪の加護』のギアも外してやる。少し早いが苦しみは一気に解決してしまったほうがいいだろう。』
ここは素直に同意したほうがいいのだろうか?喜ばしいことではない……いや……どっちだろう……。




