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再び逃げるようにその場から走り去る。黒妖狐のスペックがわからない中、無謀にも突っ込んでいく勇気はあいにく持ち合わせていないし、そんな馬鹿にはなりたくない。
無理に方向転換をしたためか、最初の数歩はこけるように無様な姿を晒してしまったが、振り返ると既に自分が立っていた場所は黒妖狐によってあらかた削り取られている。
「まだ鬼ごっこを続けるのかい?」
そんな黒崎の声が後方から飛んでくる。走って逃げても到底逃げきれないの理解している。しかし回数制限のある『光輪の加護』をそんなにバンバン使うわけにはいかない。それこそ黒妖狐のスペックをもう少し確認せねばならないだろう。
残りの光輪は両手に3つずつ、左足が2つ、右足が3つ。まだまだ余裕はあるが逃げられる限りはこの足で逃げる。
校舎の合間を縫い、上空にいる黒崎から見えないように逃げる。
どこかで聞いたことがあったからだ。召喚系はお互いの視界がリンクしているそうだ。黒妖狐が見たものは黒崎に伝わるし、黒崎が見たものも黒妖狐に伝わる。片方に見つかってしまえばもう片方にも見つかったと同じなのだ。
せめて空中にいる黒崎の視界を塞ぐことができたのなら、彼は黒妖狐からの情報に頼ることになる。
目が4つあるよりはましだろう。今は出来るだけこういった上から見えないところに身を隠しつつ、黒妖狐をどうにかしなければならない。
『……はぁ……あの黒い狐の対処法とかないんですかっ?』
先程からずっと走っているため、少々息が切れるなか、山根に尋ねる。
『結晶本体の破壊なら尾裂狐に触れることなく消すことは出来ると思う…。』
彼女にしては珍しく、断定しない、というかはっきりしない回答を飛ばしてくる。
『結晶は確か胸元に……』
先程、黒崎が黒妖狐を召喚したときは苦しそうに胸元を押さえていたはずだ。可能性は低くない。
『本当に危険になったらさっさと棄権しなさいよ!!あれは…世に出していいようなのもじゃないのよ…』




