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椋の左拳にはどこか前にもあったような感覚に包まれている。左拳を見やると逆さ吊りの黒崎は椋の攻撃を両手でがっしりと受け止めている。そう、出丘を拉致しようとした時のように。
しかし椋は構わず思いっきり拳を振り抜く。先ほどとは違い体の芯をえぐる攻撃だ。黒崎を結構遠くまでぶっ飛ばず。今度は黒崎の左手に光輪の『痕』が打ち込まれる。
これが山根から提供された戦術の一つだ。黒崎が能力を使用して近づいてきた時点で『痕』を弾けさせ、黒崎の体制を崩す。能力のラグが残っていて無防備なうちにもう一発攻撃を打ち込み『痕』を残す。それを繰り返すのだ。黒崎の能力はラグのせいで少しだけ滞空時間が長い、地に足をつけていない状態で『痕』を使えばどんな奴でも姿勢を崩す。
「ウッ……はぁ…君も僕のこと調べたくれたようだね…この能力結構厄介だ…」
そう言いながら黒崎は金色の『痕』が残る左手を見ている。特に何をするわけでもなくただ見ているだけなのだが、黒いオーラがさらに増していく。今に爆発しそうなほどに。
「さっきからそのオーラみたいなのは何なんだ?」
馬鹿正直に答えてくれるとは思ってない。
「キミに話す義理はないよね?それにしても、キミこれが見えるんだね!!」
さっきの自分のように返される。なんか腹立つな……と思いつつも、とっておきの魔法の呪文を唱える
「ギルティマテリアル…」
呟くように言う。
黒崎の雰囲気が一気に変わる。いや黒崎どころか会場全体がピリピリとした空気に包まれた。
「どこで……どこでそれを知ったぁ!!」
怒りか?黒崎の感情が激しく波立つ。
これまでみたことがない狂気以外の感情だ。
もし、もしもこの単語に引っ掛かるようなら、黒崎はそのギルティマテリアルを所持しているのだろう。そんな気持ちで試したのだが、ここまで黒崎の感情を揺さぶることができるとは思っていなかった




