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須山が逃げ出した。まあ当たり前と言ってしまえば当たり前なのかもしれない。
対戦相手、玄武寮代表黒崎泥雲は、第一試合で瞬殺された乙姫を倒した奴だ。
自分との実力差は火を見るより明らかだろう。
それに今のところ一生もしていない須山がもし黒崎と戦ったとして、第4試合の乙姫と同じようにフィールドから、自動修復圏から追い出されてしまえば、その後残る唯一勝てる可能性のある金田戦に出られないという可能性も出てくる。
一回目は瞬殺、二回目は秘部を強打、三回目は逃げ出し、四回目は棄権となったら今後いろいろとまずいだろう。今自分が須山と同じ状況に立っているのならば100%同じことをしているだろう。これではただのヤラレ役みたいだ。
しかしこれで試合の予定も一気に進む。
第7試合が飛ばされその次、第8試合は乙姫が棄権しているため飛ばされ、もう第9試合、蒼龍寮代表須山VS白虎寮代表金田の試合だ。
アナウンスによると第9試合は10分後に行うとのことだった。
そしてこれが終わればついに第10試合、黒崎戦が待っている。既に心臓の鼓動が加速を始めている。
この戦いにはいろいろなものがかかっているのだ。第一に乙姫の雪辱を晴らすというのもそうだ。黒崎の狂気に巻き込まれせいで、身も心もボロボロにされた彼女のためにも今日は頑張らなければならない。
そしてなにより、自分自身の現在の最大の目標がこの戦いの延長線上にあるのだ。
この機会を逃してしまったら、今後、いつ負の《月》の能力者、大宮が《愚者》の力を返してくれるかわからない。というより、これを逃してしまったら帰ってこなくなるかもしれない。
フール曰く、そんなことになってしまったら、実力行使で奪うことになるらしいので、それは避けたいのだ。
とそんな負けられない戦いのはずなのだが、椋は本日分の『光輪の加護』を既に一つ消費してしまっている。
仕方ないといえば仕方がないのだろうが、遅刻しかけた時に右足の光輪を一つ消費したのだ。
今日は乙姫が棄権したため黒崎戦にすべての光輪をつぎ込めるのだが、なぜだか今、それでも勝てない気がしてしまったのだ。
試合前で弱気になってしまっているのだろうか、今の心は曇りきっている。




