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 現在の時刻8時59分49秒。

 残り十秒といったところか、なんとかゲートを抜けスタジアムに入場することに成功していた。

 (ホント…どうなるかと思ったよ…。)

 長い廊下を歩いている中真剣にそう思う。

 『全くだ。自己管理くらい一人でできないようなガキが我の憑代かと思うと非常に情けない…。』

 本気で呆れたような声。反論ができない現実。これはキツい……。

 (フールももう少し早く言ってくれればよかったじゃないか…。)

 『目の周りを真っ赤にしているガキにそんなこと言われる筋合いはない…。』

 (態度悪っ!!)

 多分今フールを召喚していたならば、究極の態度の悪さを見せてくれていただろう…。いや、本当に。

 (まぁ……その…ありがとうな。なんとか間に合ったよ。)

 改めて例を述べる。なんだかんだ言ってもフールの忠告とアドバイスがなければ100%間に合わなかったわけで、実際感謝はしているのだ。

 『改まるな気持ち悪い…。我はしばらく眠るからな。黒崎戦が始まる頃までは起すなよ。』

 それだけ言い残すと、《愚者》は黙り込み、反応を見せなくなった。照れ隠しだろうか。

 心の中では基本的にお互いの感情が筒抜けだ。嘘もすぐわかる。二人のあいだに隠し事なんてないのだ。

 

 とりあえず控室に向かわねばならないおそらくというよりも確実に早には山根が待機しているだろう。別に其処らで時間を潰すことだってできるのだが、放っておくわけにもいくまい。とりあえず昨日のあの真っ白な控室の前に付き、その扉を勢いよく開けた。

 「ウッ!」 

 異臭がする。ものすごく臭い…人間の嘔吐物のような…。

 「オヴェェエエェェェェエ」

 部屋を見渡すと異臭の下はすぐに何か解った。なにせ山根が屑箱に向かい現在進行形で嘔吐しているのだから……。

 「あら…おはよう辻井君……ウプッ!…遅かったわね……どうしたの?そんな目元腫らして………。」

 すっごくダルそうにげっそりした山根が言う。

 「それはこっちのセリフですよ……。昨日いつまで飲んでたんですか……。」

 「ざっと2時くらいまでは飲んでた……ウッ!オヴェェェェ!!!……。」

 会話中に吐いてしまうほどひどいのか……。二日酔いとは実に恐ろしいものだ‥‥‥‥。

 「もういいです!先生は寝ててください!とりあえず僕行ってきますね…。」

 彼女を無理やりソファーに寝かせ、クローゼットにしまってあった毛布をかけ、スタジアムに向かう。

 「ゴメンね辻井君……。頑張ってきて頂戴……。」

 そんな言葉を言い残し、だらりとした山根が気絶したかのように眠る。

 「行ってきます……。」

 再び静かにそう言い残し、異臭漂う真っ白な部屋を去った。

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