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 彼女が唇をキュッとしめ拳をギュッと握りさらに続ける。


 「どうにか合格した。もう嬉しくって嬉しくって。その日の夜学園に向かうための準備をしないといけないから仕方なく一度だけ家に帰ることにしたの。けど遅かった。家に帰るとね……満月が部屋を照らしてた。月明かりに照らされている部屋は血の海だったの。倒れてるのは父親と弟、ほとんど原形をとどめてなくて異臭を放ってた。その真ん中にお母さんが立っててね、無表情でこっちをにらんでくるの。素人が放つ殺気なんて目にならないような殺気が全身をなめまわすように絡みついてきて…もう全身の震えが止まらなくなっちゃってさ…。抵抗できないままお母さんがこっちに向かって一歩づつ歩いてくるの。その一歩が私の寿命をガリガリと削っていくようで、怖くて……怖くて。遂にお母さんが目の前に来たの。私腰が抜けて動けなくなっちゃって……どうしようもなくなって、お母さんが手に持ってる、肉片のこべり着いた何かを見た瞬間、もう無理なんだなって思って、目を閉じてその瞬間を待とうとした」


 大宮がパッと顔を上げ、夜空に浮かぶ綺麗な満月を見上げる。


 「その時初めて本気で生きたいと思った。漠然としたものなんだけど、自分にはまだやるべきことがある。そう思ったの」


 彼女はその月の方に向かってスッと右手を伸ばす。


 「そしたら女性の声が聞こえた。はっきりと『貴方は何を望むの?』って。心の中に響いてる声なのに、私ほんとに声に出して泣きながら叫んだの。『生きたい!』って」


 そして彼女が満月をつかむように小さな掌をギュッと結ぶ。


 「そしたら願いは叶った。私の中に負の《月》が宿った。それと同時に心の中が暖かく満たされていて、生の実感を得られた。小さいころお母さんに抱かれているような、そんな感じの優しさが全身を包み込んでくれた」


 大宮はパッと手の力を緩め、手がだらんと重力に従い落ちる。


 「《月》の能力を借りてどうにかお母さんを撃退したの。そういったら変に聞こえるかもしれないけど、拘束して、動けないようにしたの。それから急いで警察に通報して何とか助かった。もちろんお母さんは逮捕、私一人残されたことになるけど、不安はなかった。あるのは漠然とした未来への希望だけだった。とこんな感じかな。私がここに来るまでの人生、負の《月》…いや《ヘカテ》と出会うまでの経緯かな」

 「……すいません。僕…なんて言ったらいいか」

 「いいの。別にそんな同情されるためにこの話をしたわけじゃないし」


 そう、固い意志が顔に表れている彼女がさらに話を続けた。

 

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