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 椋の否定に、大宮が再びシュンとなる。


 「一応言っておきますけど、僕と彼女は今日、スタジアムに向かう途中でばったり会った正真正銘の初対面ですよ?寮という名の越えられない壁に阻まれた二人的な設定に勝手にしないで下さいよ!」


 と付け加えるように言う。


 「けど、あの時の辻井君すごかったよ~。必死というか、すんごく格好良かったよ!本当に彼女というか、大切な人を守る時みたいな…。なんて言えばいいんだろうね……」


 と、彼女の言葉が止まる。

 しかし、椋はそれでようやく気がついてしまう。

 自分がどうして乙姫を助けたのかを。


 黒崎の非道さが許せなかったというのはただの方便に過ぎなかった。いや…それは言い過ぎかもしれないが、似ていたのだ。小林の事件の時の状況に。

 どこかで重ねていたのだ、沙希と乙姫を。

 沙希の時はいろんな意味で彼女を助けることができなかった。結果としては助けることはできたが、彼女の心に深々と根強い返しの付いた釣り針のような傷をつけてしまったのだ。

 今回はどうだ…。

 乙姫が腕を折られたとき、沙希が髪を切られたとき。似ていた。

 状況から見ると前者の方が確実に悲惨な目にあっているように見えるが、二人は同じような顔をしていた。

 恐怖。それだけが顔面を覆っていたのだ。


 そして間に合わない。

 どうしても間に合わないのだ。

 結局今回も間に合わなかった。


 これでようやく自分の心の靄が晴れてくれないのかが分かった。

 やはり自分が不甲斐ないのだ。

 いくら頑張ったところで結局、完全な救出ができない、そんな自分が不甲斐なかったのだ。

 結果としての救出なんて者は誰にでもできる。しかし本当に大切なことはその人の心を傷を残さないことなのだ。

 それが難しいのは承知の上なのだ。

 何が《愚者》の力だ……。

 この力を手に入れる時に自分が誓ったことを思い返すことにした。


 

 

 


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