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騒がしい会場の空気にも飽き、椋はむさ苦しい中央ホールから何とか抜け出し野外に出る。
試合終了と同時に身体的な傷は完治するといっても、精神的な傷、ストレス、疲れまでは流石に治らない。
疲弊しているにもかかわらずいつまでも続く宴によってさらに疲れが積もってき、耐えられなくなったのだ。
今日使い残した足の光輪を使い、第一寮の屋根の上に上る。実は初めて来たときからどこか確実に一人になれるであろう場所を探していたのだ。
人付き合いは意外にしんどい。時には一人になりたいと思いたぶん誰も登ってこれないであろうこの場所を選んだのだった。
自動販売機で買った缶ジュースを片手に、もう暗くなった街を眺めていた。
まだここにきて一日しかたっていないというのにもう疲れ切ってしまった。
明日は2試合あるが乙姫戦、彼女は出場できないだろう。不戦勝を頂くのは彼女には悪いが、こんなチャンスを逃せば麒麟の寮生に怒られてしまう。
残すは黒崎戦だ。乙姫と戦わない分、光輪の数に余裕を持てる。
(なあフール、君はあの黒崎どう思う?)
そう心の中で念じるように《愚者》に尋ねる。
『どうと言われてもな…。異質な何かを感じるが正体はわからん。不気味な奴だな…』
(勝てると思う?)
『それを決めるのは我ではない、オマエ自身だ。もちろん我が手を貸せばあんな青臭いガキ瞬殺してくれよう。しかしお前はそれを望まないだろう?』
(もちろん、あいつは……、黒崎だけはこの手でぶんなぐる!)
『その覚悟があれば勝てる。我から言えるのはそれだけだ』
そんな会話を続けていると、後ろから声がかかってくる。
「お疲れちゃんかな?」
そういって高い声、女性だろうか?
聞いたことがない声が椋の耳に響く。
夜の暗がりのせいではっきりとはしないが、振り向くと、そこには小柄な少女の姿がある。
髪は金、きれいに染色されているが、癖が強くクリンとしている。
そんな少女は右手で髪をキューっと伸ばしては離し、伸ばしては離しを繰り返して、こちらの返答を待っている。
「あの…どちらさ様でしょうか……?」
同級生なのか先輩なのかすらわからないその人にそう尋ねる。
「あっ!そうか!自己紹介とかまだだったね!ワタシ大宮亜実。3年生だよ!」
少しテンションが高い彼女はどう見ても3年生には見えないが、先輩なのだからと、敬語で自己紹介をし返す。
「辻井椋って言います。で、先輩はどうしてこんなところに?」
椋のそんな質問に、大宮は笑顔を苦づさぬままこう答えた。
「いや~。主役が居なくなったと思ったらこんなところで一人になってるからどうしんだろうかな~とおもって」
「お気遣いありがたいですが、そんな理由でわざわざ屋根の上まで登ってこないで下さい」
彼女の発言に2秒で切り返す椋なのだった。




