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 廊下を抜け、中央ホールへと続く扉の前に立つ。

 祭りという割には静か、いや、あまりにも静かすぎる。

 さすがにこんなところに防音設備はないだろう。可能性は二つある。

 祭りは行われず、ホール内に誰もいない可能性。しかしこちらはほとんどないといってもいいだろう。少なからず沙希はいるはずだ。彼女がいるのなら、真琴もいるはずだし、こんな時間に新田が部屋にいなかったのも理由がつかない。

 もうひとつ、というよりは確実にこっちだろう。

 サプライズだ。

 扉を開けたらパ――――ンとクラッカーが鳴り、皆の盛大な拍手が自分に向けられるのだろう。

 そのために第一寮の全員が息をひそめて扉が開くのを待っている。何とも微笑ましい光景だ。

 と見えもしない扉の向こうを想像しながら少しにやけてしまい、隣の契に不思議な顔で見られてしまう。

 契も何となく扉の向こうの状況を理解しているようで、扉を開ける権利を譲るかのように、手で合図を送ってくる。

 契の気遣いに首肯しフ―――ッと大きく深呼吸し扉に手をかける。

 グッと手に力を籠め扉を前に押し込んだ。


〇~〇~〇~〇


 パンッパパンッと何度も何度もクラッカーの音が鳴り響いた。

 扉の前には左から沙希、真琴、片山、懋、新田の順でクラッカーの残骸を握っている。


 「辻井、とりあえず2勝おめでとう!」


 片山の勝利の祝福にホールに集う数えきれないほどの人数が湧き上がる。

 予想通り過ぎる展開ではあったが実際に体験したことがなかったので、これはこれでいいものだ。

 とつい少し幸せな気分になってしまう。まだ明日二戦残っているのだから浮かれてはいけない。

 何より最終戦はあの黒崎が相手だ。気を引き締めていかなければならない。卑怯かつ残虐な行為を許してはいけない。確かにルールにはのっとっているかもしれない。降参しなかったのは乙姫だ。しかしあそこまでする必要はなかった…。

 と楽しい雰囲気の会場のはずなのについ気分が沈んでしまう。乙姫のあの無残な姿が脳裏に刻まれ離れないのだ。

 

 「みんな!宴よ!わたしが許すから好きなだけ騒ぎなさい!」


 という山根の叫びに会場がさらに湧き上がったところで、少しうつむいている椋の肩を真琴がポンと叩く。


 「おめでとう、よく頑張ったわね」


 その後耳元で、


 (フールちゃんもお疲れ!)


 と聞いているかもわからないフールに向かいそんな言葉を飛ばして来る。


 「ああ、ありがとう。」

 「調子に乗らず次も頑張ること!いい?」

 「わかってる、頑張るよ。」


 少し気を使っているようにも見える真琴とのそんな会話を終えると、次々と周りに人だかりができる。

 学年問わず様々な寮生が椋を中心に群がる。

 須山戦は決してほめられるような戦い方ではなかったが、金田戦の瞬殺のインパクトがあまりにも大きかったようで、いつか試合をしようと持ちかけられることもあった。

 少しこちらの気持ちも考えてくれているのか、乙姫の話題はどこからも出てこない。


 真夜中の学生たちのパーティーはいつまでもいつまでも続いた。

 





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