7
すっと起き上がる須山は不敵な笑みを浮かべながらいう。
「先程の戦い、敗れてしまったのは能力の相性がものすごく悪かったせいだ。貴様のような軟弱な奴に一発でやられるような鍛え方はしていない。」
須山はパッパと服のほこりを払い、拳を構えなおすと、少し力んだような顔をし、口から小さなうめきのようなものを漏らし、
「『衝撃の水膜』!」
とさらに続けた。
須山の左手からシアンの光が漏れ、それ一ヵ所に集結すると、彼の周りをまるで衛星か何かのように一定軌道を描きをぐるぐるとまわり始めた。
形を持たない、水の塊のようなものを須山が少量つかみ自身の目の前に持ってくる。
ピンポン玉ほどの大きさのそれを勢いよく拳で打ち抜き椋に向かって飛ばしたのだ。
かなり勢いのある球だったがよけれないほどのものではなかったのですっとかわす。
椋の後ろ、フィールドギリギリの壁にぶつかったそれは、どぉぉぉん!と結構な音量の爆発音を上げ煙を上げたのだ。
それを見て冷や汗を流す、いや、とまらないのだ。『光輪の加護』ほど威力もスピードもない。だがそれでも人を気絶させるには簡単な威力だった。
しかし、先程の無音の墜落はなんだったのか。不意に疑問に思ってしまった。
能力は基本的に一人に1つ。成長と共に精度や威力など、さまざまな変化はあるものの、完全に別な能力が一人に宿ることなど聞いたことがない。
彼の能力があの液体のような何かを操る能力なのであれば先程のあれが説明できない。
フールの反応からして須山が憑りつかれている可能性は0だ。
考えていても仕方がない。須山はペースを速め次々と水弾を打ってくる。
それぞれが地面をえぐり、その強烈な威力を見せ付けてくる。
あまりにもランダムに打つためうかつに近寄れない。
まるでスタミナが無限にあるかのように、持ち場から動かずこぶしを振り続ける須山の体には汗1つない。
「クソっ…オォォォォぉ!」
そんな叫び声をあげながら必死の特攻を仕掛ける。
目視できる範囲で可能な限り水弾をよけ続ける。
偶然か、すべての水弾を潜り抜け再び須山の懐に潜り込む。
できるだけ消費を抑えているが、左手の光輪を一つ使い右わき腹に殴り掛かろうとしたときそれは起こった。
彼の弾丸の源、一定軌道を漂う液体のような何かがスッと須山の右わき腹に軌道を無視して移動し、椋の攻撃を防いだのである。確かに光輪の効果は発動した。しかし、まるで液状の何かがその威力を吸収したかのように何も起こらなかったのだ。
しかしこれで分かった。須山のあの液状球体には衝撃を発する効果、そして衝撃を吸収する効果ある。先程の墜落では音を立てず、落下の衝撃を能力で吸収したのだろう。
液状の何かにはくっきりと椋の光輪がくっついている。
『光輪の加護』2段階目の効果、『追撃』とでも名付けようか。攻撃後にその攻撃部位に『痕』を残し任意のタイミングでその部位にもう一回攻撃を与えることのできる技だ。
一撃目に攻撃力は劣るものの十分使いようがある能力だ。
物は試しと『追撃の痕』を起動させる。
「弾けろっ!」
椋がそう叫ぶと、再び一定軌道についていた液状球体は『痕』をロケットの噴射口にしたかのように1メートルほど後方に吹き飛ぶ。
『追撃の痕』の効果で液状球体を吹き飛ばす事に成功した。
「………っ!」
ここで一つ椋の頭にプランが浮かんでしまった。男として考えてはいけない、いや考えたくもない。ものすごく卑怯な手だ。
普通の『光輪の加護』がきかないと分かった今、これなら確実に須山にダメージを与え、なおかつ〝男性〟ならば確実に気絶させることができるであろうプランを考え付いてしまったのだ。




