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会場のいたるところに設置された液晶画面に一人の年を取った男性の顔が表示される。
傍から見ればかなり不気味な光景ではあるが、男が放った言葉でそんな疑念はどこか得へ飛んで行った。
『第3期新入生の諸君、入学おめでとう私からも心から祝福しよう』
と、切り出した。状況と見た目、祝う言葉からして、たぶん校長先生なのだろう。
『我が校は残念ながら入学式などのイベントに保護者が参加できないシステムになっているため、本日もこういった形で式を行おうとなったわけだが、諸君らのご両親もさぞお喜びのことだろう』
テンプレート的な式辞ながらもなぜか校長が上から目線すぎる気がする。
『諸君らは本日より晴れて花車学園の生徒になった。本校はまだ創立から2年ほどしかたっていない、まだまだ足りないところがある新米学校のようなものだ。しかし他の校に負けていると思う事は何もない。諸君らが何不自由なく生活でき、十分に才能を伸ばすことができる環境を用意している。いまこの国で一番注目を集める学校だろう。そんな我が校の生徒になれたことを誇りに思ってほしい。それが私からの君たちに対する唯一の願いだ。諸君らがこの学校の新しい歴史を築いていくのだ。諸君らがこの学校の伝統を作るのだ。諸君らはこの学校のすべてを決める権利を持っている。それぞれに進路は違えど、3年間大いに悩み、学園生活を楽しんでもらいたい。決して後悔だけはしてはいけない。以上が本校に入学する諸君らに私が贈る言葉だ。花車学園校長、村本重信』
静まり返っていた会場が拍手に包まれる。
船内ではできることも少なく。このイベントと懇親が大きな目的だったと予想される。
入学式という割にはそれらしいことを一切していないような気がするが、それもまた斬新でいいんじゃないかと思えてくる。
入学式と言えるかどうかは本当に分からないが、面白い学校だなとは思った。
船が小さく揺れると、館内放送が流れる。
【これにて、花車学園入学式を終了いたします。しばらくは船を解放し、食事もまだまだご用意しております。出入り自由となりますので、ぜひみなさんの親睦を深めてください。なお明日午前9時に再びこの港にお集まりください。学校の方へご案内いたします。ご存知かとは思いますが我が校は全寮制、入寮の準備が完了次第、学園の方で生活していただきますので、明日にでも荷物をお持ちいただければ一緒にお運びいたします。では、解散。】
と、まぁ解散とは言われたものの、その場から立ち去るものは少なく、椋達も、他の生徒と一緒に食事をしたりと、思ったより楽しく一日を過ごせたのだった。
〇~〇~〇~〇
「じゃあ懋!また明日!」
「おう!じゃあなみんな!」
そういって椋達は4人で手を振っているうちに、懋を乗せた電車は静かに走り去ってしまい、だんだんと小さくなっていく。
彼だけは自宅が真逆にあるらしくあちらの方が電車が来る時間も少々早かったためみんなで盛大な見送りを終えたところだ。
「ついに明日あっちにいけるんだね」
少し嬉しそうな表情をし、沙希が言う。
「そうだな…もうすぐさ」
日がそろそろ落ちようとするそんな時間に椋と沙希二人でオレンジの空を見上げた。
彼を見送った後、数分後に到着した電車に乗り込み、椋達も一度帰宅することになる。
奇跡的に空席だった4人掛け席に座り、再びそんなに長くない乗車時間でのおしゃべりを楽しむのだった。




