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競技時々心理戦

「にしても病室って暇だなぁ」


輝は怪我が予想より早く治ってしまったためきちんと時間を持て余してしまうようになってしまった。


時間的にももうみんな下校時間。


いつもならみんなと一緒にくだらない話をしながら帰っていたのだろうが今は出来ない。


寂しさ。


そのひとつの感情が輝を包んだ。


「なんか暇だなぁ」


病室でやることも特別ある訳もなく結局いつもみたいにスマホをいじって一日が終わる。


なかなか寂しいものだ。


「輝?起きてる?」


「美神か」


来訪者は美神だ。


制服でカバンを持っているため学校終わってすぐにここへ来たのが分かる。


少し前までは輝に付きっきりだった美神も学校に行くようになった。


だがそれでも輝のお見舞いは忘れず毎日来ている。


何度も「疲れてるのに余計疲れてどうする」と言っても美神は「これは私がやりたいから...輝は黙って受け取って」と言う。


いわば償いをしていることだ。


「今日はなんだ?」


「体育祭のエントリー、何にする?」


そう言うと美神はカバンから1枚の紙を取りだした。


そこには確かに体育祭のエントリー用紙がある。


「へぇ...何があるのかな...」


輝はじっと書いている内容をざっと目を通す。


名前と出場種目を書くだけで良いみたいだ。


「...うーんとりあえず何に出ようかな、そうだ美神って何に出るんだ?」


「私?」


突如話を振られて美神はとても驚いた様子をしている。


「100メートル走と...うぅ」


美神が何故かモジモジしている。


反応的になにか恥ずかしいものを隠している時の反応だ。


「...借り物競走...悪い?」


ジト目でじっと美神は見つめてくる。


もちろん悪いわけがない。


「いや良いと思う、借り物競走なんてロマンだよなぁ...好きな人とかお題出されてそこから...ロマンだねぇ」


「気持ち悪」


「酷!」


輝の本質はオタクだ。


もちろんラブコメもたくさん見ているため借り物競走という話題にはとても弱い。


これも全てオタクの性なんだろう。


「いやぁロマンっていうものだよロマン」


「そういうものかなぁ」


美神はまだ納得して無さそうだ。


そんな美神を輝は熱く語っている。


これもオタクの性というものだ。


「だから...ロマンは...」


「輝なら...全然嬉しいのに」


「何か言った?」


「言ってない」


もちろん輝は全て聞いている。


顔も赤く染っている、もはや隠す気がないのかと聞きたいくらいにバレバレだ。


寧ろ聞こえなかったら耳が相当悪いと言われてもおかしくない距離感。


ここまで来たら本音なのかもしれない、だがもし嘘だった場合、「嘘の告白に本気になる...バカな人」


そうなる未来がなんとなくだが見えてきた。


「輝...何ぼーっとしているの?」


「あ、ごめんごめん」


先程の思考が長引いたせいかぼーっとしていたらしい。


このまま続けてしまっていたらまた自分の世界に潜り込んでいたところだ。


ある意味美神に感謝する点だ。


..............................


「結局輝は何にするの?」


「確かに決めてないな」


正直輝は悩んでいる。


必ず2競技出ないといけないため楽なものにしたい。


そうなると自動的に障害物競走と借り物競走になる。


だが借り物競走は先程の会話のまま書いてしまうと美神に変な誤解を植え付けられてしまいそうだ。


誤解を植え付けられるとこれからの視線が辛い。


たかが体育祭の競技決め、だがそれも心理戦の1部とは思うはずもない。


「...とりあえず適当に書いて渡すよ...」


輝は最強の手段「適当」を使った。


言い方ひとつでバレる可能性があるが幸い日頃の行いなどで輝の適当は大抵本気の適当というのが美神の中に定着している。


そのため今回はこの手段に逃げ込んだ。


そんな思いを胸に込めて輝はエントリー用紙に障害物競走と借り物競走の名前を書き2つ折りにして美神に渡した。


美神は特に見る様子もなく


「ありがとう...今日は疲れたからもう帰るね」


「ありがとな」


そう言い残すと美神は病室を去っていった。


少し今日の美神は顔が終始赤いままだった。

ブックマーク、ポイント等やって欲しいな|ω・)

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