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大人としての背中

明子と渚は病室からチラチラと除く感じで2人を見ていた。


2人の目は共通してニヤニヤしているため確実に誤解をしているのがわかる。


「おばさん、あと渚...見えてるから...あと誤解だ」


輝は何が誇らしいのか腕を組みながら言ったが渚はそんな輝お構い無しに話し出した。


「わかってるよ、お兄が究極の童貞なのは知ってるから」


渚の顔はとても純粋な笑みを浮かべており確実に無自覚で言ったのがわかる。


誤解していないみたいだがそれはそれで辛いものだ。


「...なんか複雑だが良いか...」


少し腑に落ちないがひとまず誤解は解けて一件落着だ。


そう一喜一憂していると明子が輝の元に普通の笑みで来た。


「大丈夫かい?」


「おばさんだってわかってたろ、俺はそんな程度じゃやられないって」


「そりゃ信頼しているよ、なんだってうちの長男だし」


明子が珍しく輝を褒めちぎっていて輝自身嬉しさと恥ずかしさのフィフティーフィフティーな気分だ。


渚もうんうんと頷いている。


「お兄は美神さんの勇者でしょ?簡単に死なないってわかってるよ」


「おいバカ」


渚はまた悪びれもせずそう言った。


渚は美神が不良に襲われそうになった事など全て知っており度々輝のことを美神の勇者という輝からしてみたら問題児な言動をする。


だが徐々にその言い訳もできなくなりつつある。


実際今回の行動はかなり危険が伴われる行動だった、しかし輝は恐怖さえ乗りこなし美神を助けたのだ。


そうなってしまえばもう言い訳できない。


「...そりゃ友達だから守るのは当然だろ」


「そういうとこだぞお兄」


渚の呆れの入っている目が輝に突き刺さる。


だがその一言が美神には刺さったらしく先程から心臓がマシンガンのように高速でどくどくしている。


顔も赤く染まり恥ずかしさのあまり顔を下にしてしまった。


その行動が明子に見られてしまったのもすら美神は気づいていない。


明子も恥ずかしがっている美神を肩トントンだけで許した。


「ふぃゃー!」


美神はどこから出たか分からない声を上げ鳴いた。


その声で明子はクスッと笑う。


今回のお見舞いは完全に2人の負けだ。


....................................


「じゃ私ちは帰るから2人は...お楽しみを楽しんで」


「誰がここでするか!」


渚が帰りの冗談を言いいつものように輝がツッコミを入れそのツッコミでニヤニヤした渚は満足と言わんばかりの顔で病室を後にした。


最後の最後まで気が抜けない相手なのが輝を苦しめる。


「じゃ2人ともまた...」


明子もそう言うと今回は珍しくあまり茶化さず帰って行った。


その様子が少し違和感だが茶化されるのに比べたら圧倒的にマシなため少し安心半分モヤモヤな気分だ。


(ひとまず嵐は去ったな)


そう思いながら2人しかいない少し寂しい病室の中で考えた。


.................................


「おばさん、もう隠すのしんどくない?」


部屋を出た渚は明子にそう言った。


その一言で明子は素直に頷く。


「そうよね...信じてるとはいえあの子はまだ高校生...」


「私だって怖いよ...でもお兄なら多分どれだけ言われてもやると思う、お兄のバカ真面目な性格で...」


明子は怖かったのだ。


若い時に自身の子供を失い、少し前に夫も失い。


次は輝。


そう考えると恐怖は無限に湧いてくる、いつもみたいなテンションで取り繕っても必ずぼろが見えるほどまで。


だが明子は輝には強くありたい。


渚はすぐに明子の弱い面を見抜いた、だが輝は身抜けていない。


だから強くありたいのだ、大人として。


「...無理に繕わなくても良いんだよおばさん」


「...そうね...」


渚の優しさが酷く染みる。


人があまり通らないため泣きたい気持ちがあるが万が一がある。


「ほんとこんな無駄なプライド捨てたいわよ」


「おばさんはおばさんの好きなように生きて...それが願いだから」


病室の廊下は永遠かと思うくらい長く続いた。

ブックマーク、ポイント等やって欲しいな|ω・)

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