日常、after前半
「にしても久しぶりにぐっすり寝れたよ」
「相変わらず呑気だね」
輝は体を久しぶりにぐーっと伸ばした。
寝ていた期間は長かったため体がガチガチだ。
そのためこのストレッチが酷く気持ちが良い。
そんな呑気な輝を美神はため息と安堵の目で輝のベットの隣にあるパイプ椅子に腰をかけながら見ていた。
「というか俺が寝ていた間何があったんだ?」
輝は自身が眠っていた間のことをとても気になっていたのだ。
誰しもが抱く感情だ、そして今美神がいる、美神は多分かなりの時間一緒に居たに違いない、そう賭けて聞いてみたのだ。
「わかったわ...あの後の流れを...」
そう言うと美神は話し出した。
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「早く救急車!私が止血するから!」
美神は輝が意識を失った瞬間ついに固まっていた喉と足が氷が溶けるかのように動くようになり走り出した。
幸い2人の距離はとても近かったためすぐに処置に迎えたのは幸いだ。
美神はまず自身のハンカチで輝の傷を防ぐため輝の服を脱がした。
男らしい筋肉のある体が見えてきた、いつもの美神なら顔を赤くして変な声を上げていたかもしれないが今は違う。
1人の人を守る、その意思が美神を強くしてくれた。
不幸中の幸いなのかカッターナイフであまり刃先が長くなかったためすぐに止血はできた。
「これ使いますか!私包帯を買ったばかりなので!」
周りの人だかりの中の最前線にいた女性が美神にそう聞いてきた。
「ありがとうございます!」
もちろん拒否をする訳もなく美神はその質問に答えるとその女性は包帯を美神に投げた。
投げられた包帯はまだ梱包すら開いていない本当に新品の包帯のようだ。
「これがあれば」
そう呟くと美神は輝の怪我をした箇所に包帯を付け解けず、そして止血するためなので強めに巻いた。
これもいつもなら人の体に触れることすら出来ないであろう美神は人命救助という大事な使命の力によりスムーズに動かせたのだ。
「...心拍数普通...寝ている?」
美神はそっと輝の胸に耳を近づけ輝の心拍を聞いてみた。
心拍は特別高いという訳はなく普通の心拍数だ。
「とりあえずこれであとは来るまで...手を握ってあげるよ、私...が怖いから」
美神は誰にも聞こえない、いつもの輝なら聞き取れる声でそっと輝の右手を握った。
(絶対に守る!この手で)
重いかもしれない、でも守りたい、その根本的な思いは変わらない。
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緊急性が高いためか、それとも焦りのせいなのかすぐに救急車が来て輝を搬送させた。
本当ならここで輝を任せようとしたが美神は流れに流されてしまい救急車まで乗ってしまった。
今美神は輝を寝かせているベットの隣で立ちながら輝の手を握っている。
このままいくと病室まで一緒が確定する。
(私が生んだ危機だから...最後まで、輝が起きる最後まで私がきちんと見守らないと)
救急車の中は狭く、そして綺麗だった。
救急車の間も美神は輝を握っている手を離すことはなかった。
その姿はさなが怖い夢を見た子供のような風貌がある。
輝の手は冷たくなることがなく常に暖かい。
この暖かさが美神の心を酷く温めてくれる。
この温かさこそもしかすれば美神が探し求めていたものかもしれない。
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病院に着くと美神と輝はついに離された。
緊急の治療のためだそうだ。
そのため美神は救急外来の待合室のソファーで手を握り祈った。
(神様...輝を...どうか殺さないで...失いたくない!)
映画やドラマだけの出来事だと思っていた治療成功を病院内で祈ることをまさか自身がやるとは思ってもいなかったが今の美神はそんなことを考えれるほど脳は働いていない。
今はただいるか分からない神に祈りを届けることしか出来ない、言わば無力な状態なのだ。
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何分経ったのだろうか、10分?それとも1時間?なんなら一日?
美神からしたら今までに生きていた中で1番長い時間に終止符が打たれた。
「あ...」
治療室が開き中から担当者らしき人が美神の方へ来た。
顔を見ると表情筋が強ばってる感じがない、だから結果は...
「治療は成功させました...これから橘くんは病室に移動させますのでぜひ行ってあげてください...」
そう言い残すとどこかへとその医師は去っていった。
ひとまず安心と同時に輝のそばにいないとという使命感が突如生まれ出てきた。
使命感が生まれると嫌でも動かないとという考え方になってしまう。
そのため美神は急いでエレベーターへと向かった。
だが入口で...今美神が会っては行けない人達と...会って...
「美神さん...」
「...ごめん...ごめん...ごめんなさい...」
体が震える、恐怖のせい?自分のせいだから怖いの?
今の美神の心に聞いても答えは教えてくれない。
勉強ならすぐに答えは求まる、しかし今回に限っては浮かばない。
だって目の前にいるのは明子と渚なのだからだ。
急いで来たのが分かるくらい2人とも息が切れている。
車とはいえ病院の駐車場からこの受付までは距離がある。
その間を走ってきたのなら息切れしても仕方がない、ましてや大事な家族の一大事、ただでさえも焦りそうだならだ。
「...美神さんや、!顔を上げな」
「...」
何も言えぬまま美神は顔を明子の方へ向けた。
だがその顔は美神が思っていた顔とは180度違う。
太陽のように眩しい笑顔だったのだ。
ブックマーク、ポイント等やって欲しいな|ω・)




