店番時々邪魔
お泊まりが始まったが輝と渚の一日は変わらない。
今日もいつものように店番はある。
輝が今は当番中だ。
しかし夏休みとはいえこのカフェは知る人ぞ知る店なので来る顔ぶれは変わらない。
「230円です、ありがとうございました」
いつものように接客をしては机を拭いてコーヒーを淹れたりする、代わり映えの無い日常だが今日は少し何か違う。
「・・・なぁ浩史、もしないとは思うが潜入調査とかする時は気をつけろよ、すげえ見えるからな」
「ぎく!」
輝は浩史が家に繋がっている入口から見ているのを気づいていた。
浩史は完璧に隠れれたのかと思っていたが実際は丸見えで明子にすらバレていた。
しかし輝の反応を見るためにわざと黙っていたのは明子だけの秘密だ。
「むしろバレないと思っていたのに驚きだわ、とりあえずカウンター席に座れ、おばさん俺の金から130円引いてて」
「・・・今回は私の奢りですますよ、だって会話気になるし」
明子は4人がけの席の一席に座りコーヒーをすすり言った。
「最後の一言がなければ最高なのになぁ」
「ありがとうございます、おば様!」
「全然良いよ〜なんだってここは私の店なんだから」
明子のドヤ顔に浩史も何故かノリノリだ。
輝は浩史の性格を思い出した。
浩史は人の調子に一緒に乗って楽しむことが得意な人なため明子と相性が抜群だ。
そのため今回は無視で良さそうだと決断できた。
「はいよ、コーヒー、温かいうちに飲んだ方がいいぞ」
「ありがとうな輝・・・美味い!」
「そうか」
輝はこの家でコーヒーを淹れるのが2番目に上手い人だ。
ちなみに1番は明子である。
かなり腕があるため基本どれも美味しく淹れれる。
「というかなんで俺の仕事見てたんだ?」
「いや気になるからだ」
「まさかここまで正直なやつとは思わなかったよ」
浩史は普通に素直な気持ちを口に出した。
この潔さに輝は激しい驚きと尊敬の念が生まれた。
「まぁ暇なのもあるな、輝も暇だろって言うのは失礼か」
「そりゃ失礼だけど事実……よしこの話はなかったことにするか」
輝も浩史もこの話が明子に聞かれると怒られる未来しか見えないため無理矢理話を変えることにした。
浩史も輝も心做しか汗が垂れてきている。
「にしても落ち着く雰囲気してるなぁ、眠たくなる」
「寝たいのなら早く俺の部屋に戻れ、ここで寝られたらやることお湯かけるしかできないからな」
「ナチュラルサイコパスが!」
「動かすにはこれしかないしね」と付け足して言うと輝は片付けに入っていった。
もう輝の店番の時間が終わるからだ。
2時間で輝と渚を交代しながら店番をするのがルールだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あらかた渚がスムーズに仕事できるように片付けると輝は浩史の隣の席に座った。
「・・・俺先部屋行っていいか?」
「了解、とりあえず早く飲むから待ってくれ」
「おいバカそんなに早く飲むと……」
「あっちー!」
輝が注意する間もなく浩史は一気にコーヒーを喉に放出させた。
コーヒーは夏場だがホットで作っているためもちろんクーラーがあるとはいえ簡単に短時間で温度は変わらない、そのため浩史の喉は今大惨事だろう。
「湯気出てるから気づくと思ってたわ、とりあえず先行っておく、後で会おうな」
そう言い残すと輝は部屋の方は向かっていった。
浩史はまだ言いたげだが無視して部屋に戻った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋に戻ると沙也希はまだ床の上で寝ていた。
夏場と言って油断はできないため輝は毛布を沙也希にかけ近くの椅子に腰掛けた。
(まあ一学期慣れないしな、しゃあないよな、でも二学期が1番行事多いのだが大丈夫だろうか)
輝は沙也希を起こさずテレビのリモコンでテレビをつけてゲームのスイッチを起動させゲームを始めた。
沙也希を起こさないためにも音量はゼロにしている。
音量がなくても面白い横スクロール型アクションゲームを選んだのは正解だった。
「・・・ムズいな」
少し難しめのステージになり輝の体が不規則に動き出す。
数分後
輝は沙也希が眠っているという事実を忘れているくらい独り言がでてきた。
「あぁ・・・またミスった!」
さっきから同じところでやられを繰り返し輝の気力がどんどん減りつつある。
そのためか道中でやられることも増えてきた。
「あぁ!またかよー!」
だが輝はかなりのゲーマーなため道中でやられることは少ない。
戻しゲーは輝の得意分野だ。
しかし徐々に集中力は低下の一途を辿っていき輝はもう限界を迎えた。
「はぁぁぁー!」
謎の雄叫びを上げゲームを消した。
どれだけやってもクリアできる兆しがないための戦略的撤退だ。
しかしこの叫びによりさっきまで忘れていた何かを思い出してしまった。
「う……うん?……輝……おかえり」
少し寝ぼけている沙也希が目覚めた。
「わぁ!すまん!起こすつもりはなかった……」
「いや、悪かった、最近色々あって疲れてたみたいだっただけみたい」
沙也希は笑っているが目はかなり疲れている。
改めてこのお泊まりに来てくれたことへの感謝を言いたいが輝は沙也希にある疑念を抱いた。
「・・・というか最近まであまり疲れてなかったのにどうしたんだ?クラブか何かか?」
遠回しに輝は沙也希になぜ疲れているのかを聞いた。
「あ、く、クラブだよ……」
沙也希の目は色々な方を向き手はどこか落ち着きがないように動き回っている。
輝は沙也希と付き合いはある程度ある。
そのためこの沙也希の対応は一瞬で嘘だと見抜いた。
「・・・沙也希よ、俺は沙也希と付き合いはある程度あるだろ、嘘だよな?」
「・・・うぐっ!ば、バレたか」
「そりゃあね」
沙也希はバレていないと思っていたのが少し悔しそうな顔をしている。
むしろバレないと思っていた沙也希の方がおかしいくらい誰にでもわかるくらいの顔だ。
「まぁそれはともかく本当の理由はなんだ?」
「いや……少女を拾った……いや助けた」
「……」
だろうなと言いたいがここで言ってしまえばさらに話は難しくなるので黙った。
きっと美神の妹のことだろうと思った。
「聞くのはあれだと思うけど聞いていいか?」
「……本当に秘密にしてくれるのを条件にしてくれ……」
「秘密にするさ……お願い」
そう言うと沙也希は輝の耳にある言葉を囁いた。
輝の予想なら「氷川茜」が出るはずだ。
しかし沙也希の言った名前は全然違うものなのだ。
「北条マヤ、だ」
「……え!?」
「は!?」
つい輝は声を漏らしてしまった。
その声に沙也希も反応してしまいこの部屋は気まずさが辺りを漂い続けている。
「彼女が今、俺の家に居る、これは他言無用だ、お願い」
ブックマーク、ポイント等やって欲しいな|ω・`)




