愛で得るもの、哀で得るもの
「とりあえずここを使って、今日1日は北条さんの部屋だと思って」
「ありがとう・・・」
沙也希はマヤを自身の家に連れていった。
沙也希の家は一人暮らしでは申し分ないが一部屋どうしても余ってしまう。
あまり使ってなかったのもありすぐに部屋は使えるまでになれた。
だがマヤの顔は驚きと不安の顔のままだ。
「安心して俺はお金とかそういうことはしないよ・・・ただの善意だと思ってね」
「でも全部やってもらってなんか申し訳がないわ」
「そんなことは気にしなくて良いよ、元々一部屋空いてたのがすごく気になってたから今日1日だけでも部屋がないと考えたら少し落ち着くよ」
かなり無理矢理気味な言い訳でマヤを押し込もうとしたがこれらの沙也希の言い分でマヤは少しだけ顔が変わった。
「でも一人で暮らすのって凄いね」
「まぁ一人暮らしって言っても親が海外に行ってるから大きな家で1人は危険って理由でこうなったんだけどね」
なにか沙也希の言葉でハッとした様子をマヤは見せた。
その事に沙也希は気づいたがあまり深追いはするものでは無いと考えあえて無視した。
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「晩御飯できたよ・・・出てきて」
夕飯の匂いが部屋中を包んでいる。
今晩はシンプルに煮魚だ。
沙也希はエプロン姿でマヤの居るドアを叩く。
ドアを叩くとマヤは部屋から出てきた。
かなりラフな服装に変わっている。
「ありがとう・・・わざわざここまでしてくれて」
「大丈夫・・・冷めないうちに食べよう」
そう言うと沙也希は今日の夜食が置いてある机に足を運んだ。
マヤも椅子に座り晩御飯を見ると驚いたような顔で見ている。
初めてのものを見るような少し不安と好奇心のある顔だ。
「はじめて?煮魚を食べるのは」
「・・・うん」
「一応煮魚は俺の得意なやつだから味は自信あるよ」
マヤは少し不安な顔で煮魚を取り取った煮魚を1口サイズにして食べると一気にかおを変えた。
「おいしい・・・」
「良かったよ・・・どんどん食べてね」
「・・・うん」
そう言うとマヤはお腹が減っていなかったのかどんどん食べ進める。
その様子を沙也希は微笑ましく見ている。
「・・・ねぇ」
突如箸を止めてマヤは沙也希を見つめた。
「何?」
「ひとつ質問しても良い?」
「答えれるものであれば良いよ」
「・・・愛のない人ってどう思う?」
沙也希はまさか自分より年下の人がかなり重めの質問を仕掛けてきたことに驚きしかない。
多分この質問は大人に聞かれてもなかなか答えるのはしんどいだろう。
「・・・そうだね・・・愛のない人・・・」
「やっぱり難しい?・・・私はずっとこの質問の答えを探しているの」
「・・・俺なりの答えならある・・・」
沙也希はわりとすぐにこたえを見つけ出した。
自分でもびっくりだ。
「この世に愛のない人なんていない・・・たとえ何があっても愛は1ミリの大きさでも人間の心にへばりつくよ・・・まぁそれが俺の答え」
「・・・ふふふ・・・かなり面白いね・・・それなら私の姉さんは・・・」
「姉さん?」
かなり小声だったがこの一言を沙也希は見逃さなかった。
もしかするとなにかあるのかもしれない。
「私の姉さんは親から愛を受けていなかった・・・そのせいで姉さんは一人でどこかに行ってしまったの・・・そして最後まで冷たかった・・・でもそんな姉さんにも愛があるということなの?」
「・・・あぁ、あるさ・・・俺はそう信じるよ・・・たとえ本人が信じなくても俺は信じるよ」
沙也希は声を大にしてこのことが言える。
それだけこのことには自信があるからだ。
「面白いね・・・あなたは・・・」
「まぁ聞かれた質問だしね・・・もし何か迷ったら全然聞いても良いよ・・・答えはひとりで見つけるものでは無いから」
このことは沙也希の本音だ。
どれだけ難しい問題も色々な人と考えれば新たな視点から見れる。
そのことを沙也希はマヤに気づいて欲しいのだ。
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色々とありそうな予感はしたがその予感は見事に外し何事もなく沙也希とマヤは一夜を迎えることが出来た。
沙也希はいつものように朝ごはんの支度をしている。
入学からの一人暮らしで一学期も終わりに近いため慣れがありかなり段取りよくできているのを実感してくる。
朝はシンプルにパンと目玉焼きだ。
「北条さん!朝ごはんできたぞー」
マヤの居る部屋のドアをそう言い2回くらいノックするとマヤは眠たそうな目を擦り部屋から出てきた。
「ふわぁ〜、ありがとう・・・わざわざ」
「全然気にしなくてもいいよ・・・それはともかく聞きたいことがあるから顔洗って机にきてね」
「うん」
そう沙也希は言うとマヤは素直に洗面所に足を運んだ。
水の音や水の落ちる音が聞こえるためちゃんと顔が洗えている。
少し顔に水が残ってはいるがあまり深追いはせず沙也希はパンと目玉焼きの乗ってあるプレートをマヤに渡した。
「どこか住めそうなアテは見つけた?」
「・・・まだ・・・見つからないわ」
予測はできてはいたがやはりまだ見つかっては居ないようだ。
「うーん、やっぱりアテが見つかるまでここに居る?」
「え!え」
マヤは驚きのあまり声が出ていない。
マヤはただでさえ良くしてもらっているのにまだ温情をくれる沙也希が神様にしか見えない。
沙也希は夜中寝ながら考えた。
(多分マヤはまだ見つからないかな・・・どうしよう・・・もういっその事)
その考えこそこの提案だ。
「北条さんさえ良ければ俺は全然良いよ?」
「・・・申し訳ないわ・・・」
「大丈夫だよ、変に恩とか求めないし困った時はお互い様だしね」
「・・・ありがとう・・・なら・・・ご好意に甘えて」
「わかったよ・・・よろしくね北条さん」
マヤの顔を見ると嬉しさと驚きで満ち溢れている。
その顔を見れただけでもこの提案は最高に近いがまだまだ楽しいことは残っているだろう。
そう考えると自然と楽しくなってきた。
「・・・でもなんでこんな提案を?」
マヤは正直裏があっても良いこの提案に疑問を少なからず抱いていたのだ。
良い話には裏がある、相手は優しそうな人だがまだ100%信頼できると言われたらまだ怪しい。
「なんというか・・・恥ずかしいが・・・寂しいんだ・・・一人暮らしって・・・親は滅多に帰ってこない、だから話し相手とか欲しかったんだ」
「恥かしくなんてないわよ・・・私は良い意見だと思うわ・・・私も・・・姉さんがいなくて寂しい」
「・・・見つかると良いね、北条さんの姉さん」
少し寂しげな表情を浮かべたマヤに沙也希はそう呟いた。
「優しいね・・・本当に・・・今まであった誰よりも」
「そうか・・・そう言って貰えると嬉しいよ」
この優しさ、いても緊張せず落ち着ける環境。
この環境はマヤにとっては天国そのものに近い。
ほぼ自由のない生活を送っていたマヤにとってこの生活は自由の多い生活でとても過ごしやすい。
安心と今までに感じたことの無い場所に対する感情が混ざりあの一言が出た。
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2人の共同生活がこの時幕を開けた。
ブックマーク、ポイント等やって欲しいな|ω・)




