過去を超えて(後半)
停学が始まった。
学校からの課題をただひたすら解きみんなとのペースに合わせるぐらいの救いはあった。
しかし輝からするとこの冤罪を着せられ停学させられているという事実のせいかもう後半から課題にも力が湧かなくなってしまった。
ずっと家に引きこもっているせいかもう何も気力がわかない。
幸いにも渚と明子、要は輝が無実だと信じてくれているのがこの事件での唯一の救いである。
しかしその救いがあってもなおこの救いを容易に超える地獄が沢山あったのだ。
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定期的に出される課題と反省文を学校に持っていく際
「ついに認めるのか?」
「・・・まだ確信的な証拠は・・・」
「だからもう監視カメラでもすべてお前が載ってるからこちらもそれ相応の対応を取っているのだ!それを忘れるな」
毎回無実を証明するがどれだけ言っても先生は認めてくれない。
渚も明子も要も何度も何度も直談判をするがその度失敗に終わっている。
これらの真実のせいでより輝の精神の破壊が進んできていることは輝自身肌で感じてきている。
今まで楽しいと思っていたこと、生きがい、すべてにやる気が入らなくなってしまった。
そのため家ではただテレビをぼーっと見続けるか寝るかの生活を繰り返していた。
趣味であったアニメにも力が入らない。
こうなってしまったのは誰のせいかと何度も自分に問いつめる。
しかしもうこの時の輝はマイナス思考にしか考えが働かない人間だったせいか何かを考えても結局自分の心をより壊すものに変化させてしまった。
このどうしようもない現実をどうにかするために何度も考えたり先生に話したが何も変わらない。
いつしか輝は誰とも話さなくなってしまった。
渚や明子、要とついに関係を絶ったのだ。
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完全に心を塞ぎこめば意外にも人生は楽になった。
誰からも干渉されない、誰からも言われない。
そのことに気がついてしまうとついに輝は部屋に閉じこもってしまった。
何度も何度も明子や渚、要に話されても心はそう変わらない。
1度塞ぎ込んでしまえばもう二度とあともどりできなかなってしまった。
そのため学校に出すべき課題も出していないせいか度々先生が輝の家に来る。
しかしこのことがかえって輝にとってはストレスになってしまったのだ。
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明子はセンターの人を1度連れてきたがそのセンターの人も役に立たずじまいで終わってしまった。
状況は何一つ良い方向に進まずむしろ輝にとっては悪い方向にしか進んでいない。
(俺、なんでいきてるんだろう)
この思考が永遠に頭の中をぐるぐる回り続けている。
(俺に未来なんかあるのか・・・)
未来のことを考えた。
しかしこの時の輝は今が漆黒である以上これ以上明るくなることは出来ないのは目に見えていた。
何度も何度も何度も自分に問いかけるがついに限界が迎えたのか
「反省文、書くか」
今までずっとやっていなかった反省文についに手を出したのだ。
今までは無罪を主張し続けたが結果的には変わらずじまい。
もう気がつくと3年生。
本気で未来を考えたらもう間に合わないと考えてしまい書き始めたのだ。
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「何だこの反省文は・・・結局自分のためしかにしか見えない」
「・・・」
「なんか言ったらどうだ」
「・・・」
「もう今日は帰りな」
「・・・」
やはり輝自身反省文を書くとはいえまだ諦めきれなかった。
しかしその事が裏目に出てしまいバレまた説教。
このループを繰り返していくおかげで輝の精神力はどんどんスりきっていく。
(何が正解なんだ!俺の書くことは全て間違いなのか・・・教えてくれ)
ひたすらがむしゃらにペンを走らせるがやはり諦めがつかない以上書き方は変わらない。
何度も何度も否定され続け輝の精神は限界を迎えつつある。
(俺はしていないのに!クソ!クソ!くそーーー!)
紙が破れるほど消しゴムで強く消しまくり反省文の用紙はビリビリだ。
その紙の見た目と輝の心は見事にリンクしている。
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(すみませんでした)
結果的に輝の反省文は後半から許しをただこう無ざまな姿になったのだ。
この時の輝はもうどうにでもなれと半ば諦めムードに入っていため全てにおいてボロボロだ。
「は、ははは、これで良いんだよ」
しかし輝にもまだ自我はあった。
どうしても紙が出さない。
紙が出せないと言うより出したくないに近いような感じだ。
まだこれだけ打ちのめされてもまだ無罪と言い続けたい精神は死んではいない。
(まだ、俺は信じたい)
心のそこで願った。
叶うか分からない願いをたったひとつだけ。
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奇跡を輝は信じない。
しかしこの時だけは奇跡を信じてしまった。
ついにあの反省文を出しに行く決意が固まったので久しぶりに家を出ようとドアノブに手を伸びした時に目の前が光った。
久しぶりの人口電気は目に刺さる。
ずっと暗闇で寝たり起きたりの生活だったのでこの明かりはとても気分が悪い。
明るさで翻弄されていたが目の前に人がいる。
「生徒会副会長の沢村沙也希です、今回は君の件でお話に来ました」
「も、もうやめてくれ・・・もう、俺は、これ以上」
「・・・今回の件は君にとってはとても良い連絡ですよ」
「え?」
沙也希のその一言で顔が上に上がった。
沙也希の顔は純粋な笑顔だ。
その顔には安心感すらある。
そのため彼なら信じれると直感で理解出来た。
「橘さん、あなたの無罪が証明されました、俺の手で」
「沢村さんの手で?」
「はい、写真のおかしな点をすべて導き出したのが大きかった」
沙也希は見つけていたのだ、写真の不備を全て。
「写真は合成、それも巧みにできていて見抜くのに時間がかかったこと大変お詫び申し上げます」
「いや、沢村さんには頭が下げないでくださいよ」
そうあの時の写真は精巧に作られた合成写真だったようだ。
きっとプロに依頼したのだろう。
「そして全ての犯人はあなたのいじめの主犯でした」
「・・・やっぱりか」
「今は彼が停学中です、ひとつあなたに選択肢を与えて良いですか?」
「選択肢!」
さっきからの沙也希の唐突な連絡達に輝は戸惑いながらも話について行った。
結局犯人はあの時の不良男だったのだ。
バレて今停学中とはとても輝的にはスッキリしたがさらにスッキリさせてくれようと沙也希はしてくれているのが見てわかる。
「まず1つ目、学校を訴える。2つ目は彼を訴える、3つ目は両方」
「・・・・・・俺は・・・・・・俺は」
沙也希は輝が悩んでいる最中もずっと笑顔だ。
その事が輝にとってはとても大きな安心感となる。
「俺は3番を選択します」
「了解、そう言うと思って結果を持ってきたよ、詳しいことは省くけど君の担当をしていた先生は異動、彼の家から慰謝料、学校から慰謝料と言った感じですね」
内容はとてもスッキリするものだった。
しかし輝の青春になるはずの時間が奪われてしまったのはもう変えようのない事実だ。
だが信じ続けたことにより未来が変わり動き出す。
この時初めて輝は奇跡を信じたのだ。
「うぅ、うぅ〜うぐっ」
「今は存分に泣いてくれ・・・よく耐えたね」
輝はこの時初めて見知らぬ人の目の前で大粒の涙を大量に流した。
恥ずかしいとは思うが涙は止まる気配がない。
だが泣く度に今まで背負っていた重い罪がひとつずつ消えていくのはとてもスッキリするものだ。
外の季節はもう桜の季節。
この出来事が輝の新たな門出なのだ。
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それ以降このことがあったおかげで沙也希と輝は仲良くなれた。
理由は共通の趣味を持っていることもひとつだ。
あの事件が終わり輝には笑顔がやっと戻った。
変えることのない過去を、乗り越えたのだ。
仕組まれまくった事件を乗り越え輝は大きく成長ができたがやはり残るものはある。
トラウマというものはこの事件で大きくそしてがっちりと根強く残る。
この事件のせいで輝はあまり積極性と言うものを失ってしまった。
この事件のトリガーは輝の性格が原因だ。
だから恐れてしまったのだ人を助けるということを。
だがそんな恐怖も沙也希が勇気に変えてくれたのだ。
「進んでする後悔より、進まない方の後悔が大きい、だから輝はもっと進んでいいんだ、たとえどれだけ苦しい思いをしても輝を助けるから」
その一言が弱くなっていた心をまた元に戻してくれた。
沙也希が居なければきっと輝はあのまま破滅していただろう。
輝に成長、進化をくれた。
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しかし今目の前の現実はさらなる進化を求めている。
(今までの俺じゃぁアウトってことだ、もう後には引けない、進むしかない!)
ブックマーク、ポイント等やって欲しいな|ω・`)




