periodで良いの?
輝は要からの助言を貰うと死に物狂いで走った。
(走れ!とにかく今は走れ!四の五の言わずに走りきれ!)
自分の心に戒めるためと言っても過言のないくらい走り切る。
数十分もしないうちに目的地である美神の家の近くに着いた。
家の前までは何も考えずに行けたが家に近づくにつれひとつの問題に直面した。
それは家に近づくにつれ体がこれ以上前へ動けない。
さっき弱い自分とは決別した。
なのに心の弱さは未だにある。
心の弱さが足がけとなり前への1歩が進まない。
(なんでなんだよ!俺は·····あの時!)
心の中で叫ぶが結局行動に移せていない。
その時点で輝の実力はその程度だ。
「っーー!くぅー!」
声が上手く出ない。
脳は働く。
しかし体のどこかで拒否反応が出ているのだ。
(また俺は!また俺はあの時の悲劇をー)
目の前がどんどん暗くなる。
それでも前に進みたい。
しかし
体は
自分の思う通りに
進まない。
いつもならあの美神のアパートは入りやすく見えるが今日だけはゲームのラスボスの君臨している城くらい高くそびえ立つように見えてしまった。
····································
(また·····俺は)
電車に揺さぶられながら輝は電車の窓の景色を見つめた。
いつもなら何も感じない電車の音やそこそこに栄えている景色が今だけはカタルシスな気分で見てしまう。
結局過去との自分とは決別することは出来なかった。
全て輝の心の弱さが原因だ。
今日起きたこと全て自分の弱さからの行動なのは輝が嫌という程わかっている。
そうガタガタと電車の中で揺さぶられながら遠い夕日を見つめていた。
(俺は····強く·····なれない)
口ではどうとでも言える。
しかし行動で移すことの難しさを今日、体で教えられてしまった。
電車から降りいつもの帰路をいつもと同じような歩いたが何か違う。
いつも感じない感覚が輝の体を襲う。
さっきの電車と同じあの家もあの店も全てにカタルシスを感じてしまう。
またそうやって自分で甘えてしまっているのはわかっている。
でもやめられない。
そこが第1の問題点だ。
····································
家に帰ると明子はカウンター席で座りながら優雅にコーヒーを飲んでいる。
「おかえり」
「あ、あぁただいま」
少しキョドったしまった。
輝は部屋に荷物を置き諸々の用意を済ましカフェの店番に入った。
入ったと言っても全く客が来ない時間帯なのでスマホをレジの近くでいじるしか出来ない。
(·····もう1人アドバイスを言ってくれる人がいるじゃん)
もう1人の助っ人。
実質的な最後の希望である明子がいた。
輝はいつものように自分とバレないように言葉を並べ質問を作り明子に投げかけた。
「おばさん····これは友達の話なんだが····聞いてくれるか」
「私でよければ」
「ありがとう···友達は自分で女友達と関係を絶った、それは相手も知ってる。でもそれが互いに不本意だった時どうすれば良いと思う?」
「…難しい質問だね」
明子はコーヒーを飲むのを辞め頭を抱えだした。
明子の顔を見るとかなり悩んでいる。
輝自身この質問はかなり難しいと思う。
だが1分くらい悩んでいると明子は突如何かを考えついたらしくその口を開けた。
「こういう時は素直に物事を言うのが1番」
「素直·····か」
「自分の素直な気持ちをお互いに話し合い今後を決める·····素直な気持ちが全てにおいての基礎だから」
明子の言うことの重さはかなり違う。
要からも言われたが結局終局に向かうために必要なものは素直な心だ。
素直に物事を打ち明け関係を少しづつでもいい、ゆっくりとまた一から作り直すことが必要なのだ。
「ありがとう·····おばさん」
「そりゃどうも」
そう言うと明子はまたコーヒーを優雅に飲み出した。
···································
学校に着くとやはりまだ弱い心はある。
正直教室に入ることすら億劫となるくらい。
しかし全て決めたし覚悟はした。
その思いで扉を開けるがそこには誰一人もいなかった。
いつもなら美神がいる時間帯であるのにもかかわらず。
「·····またかよなんなんだよ」
そうつぶやくと輝は自分の席に荷物を置きスマホゲームをやり始めた。
しかし思うようなプレイが出来ない。
いつもできているはずのプレイが全てミスになっている。
手が思うように動かない。
それと同時についいつもは美神が座っている席を覗いてしまう。
だがそこには美神は居ない。
というか連日学校に来ていないおろか目撃情報すらない。
そのため焦りも生まれている。
毎日美神の家の前に行くがまだ決意が完璧に固まっていない。
全然進歩していないのだ。
何一つも。
美神の連日休みと同時にソラも来ていないためどうすべきか分からない。
(·····美神·····大丈夫なのか)
輝は最悪な結末を想定してしまった。
輝は美神の約束を破った。
そのことにより精神的に参ってしまったのか。
1度でもそういった最悪のパターンを想定してしまうと体が不安で手一杯になる。
不安でどうにかなりそうな時に待ちに待っていた輝にとっての救世主であり最後の希望が現れる。
救世主とは
「輝様·····お話が」
「·····こっちも聞きたいことが沢山」
美神の現護衛をしているソラだ。
ソラと美神は1番距離的には近いため今のリアルタイムの美神の状態を聞ける絶好なチャンスなのだ。
「まず俺から聞いていいか?」
「私はどちらでも」
「なら俺から·····美神はどうだ?」
「私もその話をするためにこちらに来たので」
どうやらソラと輝は同じことを聞こうとしていたらしい。
「美神様はずっと泣いております、あの日以降、私が今日来た理由は·····」
「·····なぁ今日、ズル休みするわ」
ソラのその一言で全ての決心が今ついた。
輝は美神のためではなく自己的な理由で関係を絶った。
表面では美神のためとか思ってはいたが自身で蓋を開けると中は自己的な理由なのがわかってしまった。
結局ただの罪滅ぼしだ。
でもこうでもしないと美神も輝も誰も得をしないバットエンドに突入だ。
「····言うと思っていました·····こちらもその手を打つプランは山ほどあります」
「どんなプランかは知ったらいけない気がするが·····ありがとな」
そう言うと急いで鞄を持ち教室を去った。
思い立ったが吉日。
輝はあとのことは全てソラに託した。
今はただ美神のことを考え輝は走り出す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昨日までの自分はあと一歩が踏み込めなかった。
しかし気づ付いている美神の様態を聞くと進みきれなかった1歩が歩み切ることに成功できた。
(やっとだ・・・やっと)
足を踏み込み着実と美神に近づいているが自然とあの時の感覚は無い。
あの時の弱い自分が消えたような感覚だ。
遂に美神の家に付きチャイムまでおせた。
ドアの奥から少し物音がする。
きっと扉の向こうに美神が居る。
これまでの思いの丈を吐ける絶好のチャンスだ。
しかし口が動かない。
(・・・まだ俺は捨てれていない・・・過去のトラウマが!)
ボンドで固く付けられたような感覚だ。
「あ、あ、あぁ」
声にならない声がずっと出てしまう。
(また俺は弱いままなのか・・・あの時の弱い自分は消えてないのか)
あの時の弱い自分。
弱い自分とは今から遡り輝が中学1年の頃だ。
輝自身の人生の起点はここで来てしまったのだ。
自分の性格災いしとんでもない不幸はこの時に訪れた。
(結局俺は何一つも変わってないのか・・・ははは)
ブックマーク。ポイント等やって欲しいな|ω・`)




