無理時々我慢
目が覚めるとそこは保健室の天井だった。
体を見ると腕とかには傷は無いが服の中を見ると包帯やら湿布やら貼られている。
少し体が痛いが服を脱いで確認しているとき聞き覚えのある声が聞こえた。
「輝ー!ここで服を脱ぐって、馬鹿ですか?」
「いや、男の上半身に価値ねぇだろ」
「っーーー!」
美神の真っ赤な顔と声にならない声を上げ目を逸らしているがたまぁにチラチラと見ているのは気づいている。
「なぁ地味にチラチラと見てるだろ」
「そ、そ、そ、そ、そんなムッツリな人では無い!」
「見てるから言ってんだよ!」
「っーーーーー!!」
また声にならない声を上げ顔を伏せた。
次はもう見ていない。
バレてないのだと思っていたらバリバリバレているのはあの完璧な美神の心にはだいぶきたらしい。
「あのさぁ」
「っー!何?」
まだ声が震えている。
それほどまでに恥ずかしかったのがわかる。
「俺ってさ体育館裏でやられて他の誰が気づいてたんだ?あそこ誰も居なかったし言われた時は授業中だから分かるはずもないし・・・」
「要さんや沙也希さんが教えてくれた・・・輝の様子がおかしいからしれっと輝の後ろを付いてたらしいよ」
割と衝撃的な事実故びっくりだ。
沙也希はあまり人のことは深追いすることはしないので多分立案者は要だ。
それでも要のこういう案に乗るのは中々ないのでよっぽど輝の顔が酷かったのだろうと予想される。
あともうひとつ輝にとっては大事なことが残っている。
美神が輝が殴られていた場所を何故知っているより輝的には大事だ。
「それでさ結局あの3人組はどうなったんだ?」
「分からない、でも少なくとも悪意のあるリンチだし多分退学ね」
「退学か・・・あの人たちの怒りに火を灯したのは少なくとも俺の責任もある・・・だからなんというか・・・」
輝自身その結果に少し心が痛んでいる。
輝が煽ってここまでのことをしたのだ、もし煽らなければここまでならなかったのかもしれいない。
「いえ、多分輝が何してもあの結果は100%変わらないわ」
「・・・でも罪悪感がある・・・今生徒指導室だろ、少し罪軽くするために行ってく・・・ぐぅ」
体を動かそうとするがとても痛い。
殴られたり蹴られたりした部分が特に痛い。
その様子が美神に伝わったのかすぐに体を寝かされた。
「今怪我をしている身で変に動かせば余計悪化するのは分かるでしょ、馬鹿なんじゃない?」
「・・・」
正論すぎて何も言い返せない。
多分あのまま動いても体はきっと生徒指導室まで持たない。
仮に行ったとしてももしあの3人の結末が決まっていたらもうどうにもならない。
非常にやるせない気持ちで美神の言うことを飲み込むことにした。
「とりあえず私は授業があるから、絶対に動かないでね」
「そこまで言われると動かねぇよ、あと痛くて動けん」
「じゃあ信じるからね」
そう言い残すと美神は保健室から去った。
去り際も割と真剣に心配している顔なのでさすがに美神の珍しく心配している気持ちを無下にすることは出来ない。
(大人しく寝るか)
また輝は眠りのために目を閉じた。
今回は周りには睡眠を妨げるものは無い。
それもベットなため寝ろって言っているようなものだ。
しかし運はなかなか味方せずまた新たな来訪者が来た。
「輝、大丈夫かー」
少し気だるそうな声が聞こえた。
輝はもちろんその声に聞き覚えがある。
「先生・・・」
「まぁ見た感じ大丈夫ッぽそうだな・・・とりあえず話したいことが沢山あるからまずは輝から話せ」
カーテンを開けると少しほっとした表情で彼は輝のベットの近くにあるパイプ椅子に腰をかける。
彼の名は増田奈佐
輝達のいる1年生の数学教師であり輝の担任でもある。
少しやる気がなさそうな話し方であるがなんやかんや教師としては人気のある先生だ。
「先生、不良3人組は?」
「とりあえず停学・・・まぁどうせ退学だろ」
「先生・・・俺も少し責任があるのですよ、アイツらの怒りに少しではあるけど火を灯したのは俺・・・少し軽くさせてやってください」
その目は今までにないくらいの真剣な眼差しだ。
その剣幕に増田は少し驚きを見せるがすぐに元の顔に戻りうーんと少し唸った。
だが顔は真剣だ。
「ははは、輝はだいぶお人好しだな・・・まぁここは俺に任せろ・・・とりあえず軽くすることはできるができて退学取り消しぐらいだ。というかお前はすごいやつだな」
増田はいつもの休み時間の時に生徒と話す時のノリノリな雰囲気や顔で話した。
もうそこにはあの真剣な表情は無い。
「そ、そうですかねぇ?」
輝もその雰囲気が汲み取れたのか増田のノリに合わせる話し方にシフトチェンジさせた。
「そりゃな、だってあれだろ美神助けるとはいえあんだけイケメン発言ぶちかましてるのはイケメン、職員室中にお前のかっこよさ伝わってるし」
「そ、そうですかねぇ・・・ってちょっと待ってください俺の発言なんで知ってるのです?」
当然の返答だ。
あそこに盗聴器でもあるのかと少し疑ったがその疑いを増田はすぐに晴らせてくれた。
「沙也希が電話を垂れ流しにしてくれてたんだ・・・そのおかげ、まぁお前の美神に対するセリフはよく聞こえたなぁ、それ以外上手く聞き取れんかったけど」
その事を聞いた時本気で沙也希を殺そうとしたがよく良く考えればあの場には沙也希ともう1人要が居たことを思い出す。
その瞬間血の気が引くとはこのことかと思うくらいに血が引いた。
(これ絶対帰ったら尋問されるやつだ)
長年要とはよくすごしていたのでこの結果は当然分かることだろう。
だからなお絶望するしかない。
「まぁとりあえずお前の希望は職員会議で言う、退学は無いとは思う、まぁ、あれだ早く治せよ」
そう言い残すと増田は保健室のベットから姿を消した。
少しぶっきらぼうな言い方だがこれも全て彼なりの優しさなのは少なからずわかっている。
去り際の顔は笑顔なので早く治せよは本音っぽそうだ。
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増田が去ると輝はまた眠りにつきどれくらいたったかはイマイチ分からない。
だが起こされたということはもう学校が終わりということだろう。
「橘さん、起きてください」
あのガラガラボイスが聞こえた。
その声に一発で保健室の先生だと見抜ける。
「せ、先生、今は」
「今は6時間目終わり、早く教室に戻って帰りなさい」
輝の思っていることを即答えてくれるあたりベテラン感がある。
なんやかんや6時間目まで寝ていたのが驚きだ。
輝は早く帰れということを聞くと体を上げベットから降りる。
まだ若干体が痛い。
でもさっきほどでは無いのが救いだ。
少し歩き方がふらついたのか保健室の先生はすぐに体を支えてくれた。
「すみません、とりあえず歩くのに慣れかけたのでもう離しても良いです」
「わかった」
そう言うと保健室の先生は輝の腕を離し輝は保健室から出た。
その様子を何も言わずにただただじっと見守った。
見守るしかできないからでもあるが。




