こぼれ落ちた幸せ(2)
声がした方向を急いで向くとその先に描かれていた世界に居たのは
「な、なんでと、父さんも」
輝の父はドア前で倒れていた。
口から血を垂れ流していて立てていないという点からもう助からないのは一目瞭然だ。
よく見ると腹部から血が流れており父のいる箇所が血の水溜まりのようになっているのも見えた。
だがそれよりも不味いのは父の後ろに人影が見える。
成人男性ぐらいの大きさの姿が、フードを被っており顔が見えない。
その手にはきっちりと刃物が握られていた、男のいるリビングは今明かりがないので見えにくいが刃物から液体がぽたぽたと垂れているのも見えてしまった。
「あ、ああああああああ」
しかしそんなことを幼き頃の輝が注意深く見れるわけもないどころか大人でもできないことだ。
「・・・にげ・・・がはっ!」
鈍い音が辺りを響かせた。
なにか硬いものを無理やり刺したような音だ。
その音が鳴った瞬間父の体から力が無くなるのも、そして息が無くなるのもわかってしまった。
幼き輝にはあまりにも刺激的すぎるどころか永遠に離れないトラウマとなってしまう。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
もうこの後から輝の意識は無かった。
プツリとなにか糸が切れたように綺麗に意識は消え去ったのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うわ!ハァハァ・・・ゆ、夢・・・」
目を覚ました時、居たのは病院だった。
特に点滴や機械などはつけられていなくベッドで寝ていたということが今の視界で見える情報だ。
今を知った輝は先程、最後に見た光景が夢ではないかと確認するため頬をつねったりと在り来りな方法で試した。
しかしどれも痛い。
「夢じゃないのか・・・」
この現実は夢では無いが意識が無くなる前に見た景色、あれはなんだったのか。
一体何が夢で何が夢でないのか・・・輝は焦ってきた。
(もしあの見た光景が夢ならば・・・でも現実だったら・・・)
そんなことを頭の中でとにかく考えたが現実はとても厳しく
「全て現実だよ輝・・・輝が見た家の惨劇もこの病院も全て現実」
輝の隣から1番嫌だった現実を言われてしまった。
急いで声の主の方を向くとそこに居たのは
「おば、さん?」
「やぁ輝・・・久しぶり」
そこに居たのは・・・
「明子おばさん・・・」
明子がパイプ椅子に座っていた。
明子、輝の母の歳のかなり離れた姉なのだ。
彼女が20代の時に輝の母を産んでいると輝は母や明子から聞いたのでもちろん覚えている。
明子の顔はまるで慈愛の女神のように美しく、そしてその顔は今の輝に酷く心を落ち着かせてくれるようだ。
「おば・・・さん・・・おばさん!」
「ほら輝・・・泣いていいんだよ・・・」
「うわあああああああああああああああ!」
輝は明子に抱きつくと肩元を涙という水で濡らしまくった。
なにか大きなダムが決壊したかのように激しく。喉が壊れるほど大きく泣いた。
今の嫌なことしかない現実を消していくように・・・
ただただ泣いた、とにかく泣いて泣いて泣きまくった。
その間も優しく背中を叩いてくれる明子の優しさが今の輝をさらに泣かせに来る着火剤にもなったり。
(もう嫌だ・・・こんな現実・・・)
ブックマーク、ポイント等やって欲しいな|ω・)




