儚き夢と恐怖の夢
「怖いの……幸せを失うのが……」
美神がどんどん縮こまって震えている。
いつもみたいな強気で何でもズバズバ言う美神はもうこの場には居なく、居るのは恐怖で震えている少女だけだ。
「前まではこんな感情はなかった……昔は自分二幸せなんてなくただただ1日1日を生きるのが苦痛だった……でも!」
美神の顔が徐々に上がってきた。
美神の顔のバックには夕日が照らされ徐々に天然の光が消えつつある。
顔を見るとそこには先程まで恐怖で体を縮め込ませていた美神は存在しない。
その様子に輝は何も言わずただただ黙って見届けた。
「私、高校に入ってから変われた!生徒会に入って、片原さんと出会って!要さんに沙也希さん!浩史さんとも出会って!そして渚さんに!最後に輝……あなたと出会えて」
話が佳境に入ってきたのか美神の声がどんどん大きくなる。
そして同時に美神の目尻から涙が溢れだしてきていた。
彼女の目は……とても……綺麗だった。
瞳の奥が今までにないくらいまるでダイヤモンドのように輝きを纏っていた。
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「大丈夫だ……俺が……絶対に守るからな」
輝はそう言うと美神の頭をそっと撫でた。
美神は今まで生きてきて頭を撫でられるという行為をされたことがない。
美神にとって頭撫でという行為が親や恋人などにやってもらう行動だということは知っていたが所詮自分には画面の向こう側の世界だと思っていた。
だがされてみて初めてわかった……
「……あはは、なんでだろうね……なんでこんなに泣きそうになるのかな……」
「泣いてもいいよ……辛かっただろ……怖かっただろ。安心して……ここには誰も美神の幸せを邪魔するやつはいないなら」
今の美神は先程までの美神では無い。また最初の時みたいな恐怖に怯え縮こまっている美神に戻ってしまった。
冬の寒さに震えるかのようにカタカタ震えてしまっている美神に今輝はただただ頭を撫でて落ち着かせるしかできない。
そんな美神に輝はどうしようもない擁護欲が湧いてしまったため美神の頭を優しく割れ物を触るかのような手つきで彼女の頭を撫で続けた。
だがひとつ気になる点があるとするのならずっと顔を伏せているため表情が読み取れないのが玉に瑕だ。
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「……輝……ごめん」
数十分ほど経った頃合にやっと正気を取り戻したのか美神は泣き腫らした目を輝に向け謝った。
もう気がつくと辺りは暗い。
今生徒会室は照明で明かりを灯しているがそれでも外が暗いせいか夏場の時間の移り変わりを表してきている。
「いや、このくらいなら大丈夫なのだが……」
美神は顔を真っ赤にしてでもきちんと目を合わせて謝っている。
だが輝も輝で勝手に頭を撫でたりして謝りたいと思っている。
「……でも……ありがとう……いつも輝が私の『初めて』を奪うわね」
「そりゃどうも」
美神のイタズラな笑みを輝に対して浮かべそう言う輝は冷静に対処をさせた。
その瞳は徐々に輝きを取り戻しつつある。
ダイヤモンドのように綺麗で、どこか儚い彼女の瞳は本当に美しさを保てている。
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「……輝……」
「なんだ?」
「信頼しているよ」
「任せておけ」
もう辺りは天然の光源を消しに来ている。
この生徒会室で起きた時間はまるで無限のように長くどこか儚い思い出のようだった。
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