体育祭編 障害物競走(3)
「おーっと!1年Y組の人がもう帰ってきました!」
実況の声が辺りに響き渡ると皆普通なら選手退場に使われる門の前にいる輝の方を見た。
周りの視線は輝にはどうも慣れない視線しかない。
「あの美神さんを!」
「なんであんなやつが!」
「え、これって!」
美神は学年問わず全生徒が知っており男子は美神を彼女にするため常に四苦八苦するくらい人気だ。
そんな彼女にもしかすると彼氏が出来るかもしれないとなってしまえば会場の盛り上がりはとてつもないことになる。
今現在も会場は始まった段階以上の盛り上がりを取り戻し、それどころか朝以上に盛りあがっている。
「お!!彼らが今年の!おおーー!」
実況からもこの興奮は伝わり輝はどんどん胃が痛くなってきた。
あまり目立つのは慣れていないのもありこの場からすぐに逃げ出して吐くものを吐き出したい気分だ。
そんな感情を持ちながら美神を見ると
(え?美神って知ってなかったのか)
どうやら美神もこの借り物競争が毎年カップルを排出しているということに気づいていないらしい。
そのため実況の言っている内容を全くわかっていない。
「・・・とりあえず行きましょう!」
「そうだな!」
美神がそう言うと輝の腕を掴みコース内へと足を踏み込んだ。
今の輝には先程までの変な緊張感は全くなく、あるのは少しの安心感のみだ。
だが結局美神はあの実況の意味深発言の意味は全く分からずじまいのままだが、美神は知るよりもレースに勝つことを優先させた。
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「おおー!1着ゴールは1年Y組!!!!」
先程美神は走ってゴールまで向かったが特に焦っても焦らなくても後続が来るのはだいぶ後だったのでそこまで焦る必要がなかった。
1着の喜びなんかよりも輝はひとつ不安なことが残っている。
「美神、大丈夫か?熱中症の後にこんなことして・・・呼んだのは俺だけど・・・」
「大丈夫よ、私を誰だと思っているの?」
輝の不安はどうやら杞憂らしく美神はそんな輝の不安を弾き飛ばすかのように答えた。
美神の自信に満ち溢れた顔に輝は美神の言っていることを信じざる負えない。
そんな美神を後目に輝はただただ後続が来るのを待った。
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「・・・ねぇ輝・・・」
「どうした美神?」
中々後続が来ないため2人は座りながら話して時間を潰すことにした。
そして先手は美神かららしい。
「・・・さっき実況の人が言ってた『今年の』ってどういう意味?」
「あー、うん・・・」
言えない。
言えるわけが無い、ここでもし
『毎年カップルができるって言ってた』
と言ってしまえば美神はきっと、いや確実に・・・
『・・・私輝とそんな関係になるつもりなんてないわよ』
と一蹴されて終わる。
そうなってしまえば元の関係に戻ることは出来ないだろう、たとえうわべだけが戻ったとしても絶対に中は戻らない。
「ねぇ教えてよ?」
先程から輝が言葉が喉に詰まっているせいか中々話さず痺れを切らした美神は輝の体を動かして話すよう催促をしている。
だがそんなことをしている間に
「おーーー!続々とゴール!ゴール!ゴーーーール!」
ついに全出走者がゴールに辿り着いた。
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「では今回は最下位からお題を発表していきますね」
ついに始まった発表式。
あたりは緊張のあまり静かになっている。
先程の騒がしく感じていたざわめきが今となれば跡形もなく消え去りあるのは緊張感漂う静けさのみだ。
もちろん輝と美神に緊張がないわけが無い。
「さぁ、お題は・・・お!最初からジューシーな内容ですね!これは!この後の見所が困ってしまうくらいです!今年の体育祭の初!カップルがー!!」
実況の声の盛り上がり。そして辺りの盛り上がり。
この2つから輝は何となく予測がついてきた。
(あ、これめっちゃまずいかも)
その悪い予感は見事に的中してしまい
「お題はー・・・付き合いたい人!でした!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!」」」
先程までの静けさはまた消え去り今は新たなカップル完成の祝福の声で満ち溢れている。
拍手喝采が飛び交うこの体育祭の地で今輝はみんなと反対の意味で盛り上がっていた。
(まずいー予想より早くこの体育祭の借り物競争の目玉バレてしまった〜)
遅かれ早かれバレるとは思っていたことだったがここまで早くバレるとは思いもしなかった。
(マズイ、美神の目がかなり怖い!)
今の美神の目は輝をギロット見つめている。
美神の無言で輝を睨む視線に気づいた瞬間輝はそっぽを向いてしまった。
無意識のうちにやってしまったため事後は反省会になる。
睨まれた時の視線、美神の瞳に輝は背中が凍るように冷たく、殺意か何かを感じ身体中が冷え込んだ。
(どうしろと言うんだよ〜)
ブックマーク、ポイント等やって欲しいな|ω・)




