テスト時々破滅
「・・・まぁこんなもんか」
1年棟に張り出されたテストの順位表を見ながらそう輝は言った。
つい先週受けた定期テストがあったのだ。
順位は可もなく不可もなくだ。
輝はできる限り勉強には時間を割きたくない生活を望んでいるため努力は最低限にしている。
そのため順位はまぁまぁだがあまりなんにも思わない。
「やっぱり1位は氷川さんなんだね」
「すごーい」
「氷川さんってなんでこんなに頭がいいんだ」
「天才じゃん」
周りがそう駄弁っている。
輝も少し気になり順位板を覗くと1位の欄に氷川美神という聞き慣れた名前が載ってあった。
テスト全てが満点の点数で輝も少し驚いてはいるがあまり気にしていない。
(他人のテストの結果でそんなにキャーキャー言えるもんかね)
輝はあんまりテストの点数は意識しておらずそれなりに生きていれば良いかというかなり楽観的な価値観を持っているので特別頭が良くてもあまり気にすることなく接することが出来た。
「輝!お前、何点だ!?」
「うわぁ!ひ、浩史かよいきなり後ろから来るなよ」
浩史が鬼気迫る表情で後ろから輝に抱きついてきた。
その表情はまるで殺人鬼に追われている時の顔である。
あまりにもの剣幕なためとても重要なことなのだろうと思ったが浩史の気になることのしょうもなさから頬が緩み普通に順位を教えた。
「240人中、100位」
「なんやてー!おめぇ!許さん!タダでは許さん!」
浩史はまたものすごい剣幕で輝の首根っこを持ち前後ろにピストン運動させる感じに動かす。
このような運動をされてもただただ気持ち悪くなるためなのであまりダメージは無い。
「逆に聞くけど浩史は何位だ?」
「え、俺?」
急に手を止めぽかんとした表情で答えた。
普通他人にこの手の質問を投げかけるのなら自分の答えも教えるのが常識だ。
しかし浩史は何も答えない、その様子に若干手を焼くと沙也希がサラッと来た。
「浩史、今回、順位230なんだ」
「え」
「沙也希てめぇー!」
沙也希は少し申し訳なさそうに答えるが浩史はその様子の沙也希を許すはずもなく速攻ターゲットを輝から浩史に変える。
「くるしー」
「絶対嘘だろ」
沙也希は浩史の攻撃を適当に返している。
さすがの棒読み演技には浩史も気づいていたらしく徐々に攻撃を辞めていった。
急に周りがざわつき始めた。
なんとなくだが誰が来たか予想はできる。
「おいおい」
「きゃー1位よ」
「本物の天才だ」
「本物の天才がアイツと?」
これだけ言われていても未だに浩史と沙也希のじゃれ合い光景を見ていると後ろから聞き覚えのある声が薄紫色の髪とともに颯爽と現れた。
やはり声をかけられると疑念もなくなる。
「あら学校を布団と思っている輝、この順位を見に来てたの」
「俺は布団じゃねぇ、ベッドで寝てる!」
「そこは関係ないでしょ、だから馬鹿なのよ」
「うるせ、というか美神全教科満点か・・・」
美神は余裕そうな笑みで輝に向ける。
輝自身あまり点数には興味は無いがさすがに全教科満点は少し目に入る。
「まぁ、すごいな」
「え、それだけ」
美神の目を見るとかなりの驚きを目にともしている。
輝はその目を見ると今まで美神がどういった評価を受けていたのか大体理解出来た。
「凄い、それだけだ・・・でも頑張ったな」
「っーーーー!」
美神は輝にそう言われると顔を真っ赤にしそそくさとこの場を去った。
輝は少しやってやったぜといった気分が輝自身を包む。
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美神はあの場を去るとかなり早足で歩いていた。
「本当に本当に、バカバカ」
美神はいそいそと教室へ戻る。
みんな順位を見ているため教室に居るのは美神ただ1人。
美神は自分の席に座り顔を伏せる。
中々しない行動なので慣れないがそれよりも輝に言われた言葉が忘れられない。
(やっぱり輝は何か違う、みんなとは・・・)
輝は美神が今まで体験したことないことかつ言われたことの無いこと全てを体験させてくれた人だ。
そしてこの経験も初体験なためまた覚えされられたのがとても嬉しい。
「橘輝、やっぱり輝はみんなと違う、だから私は彼と話せれるんだ」
またこのようなことを考えるとさらに顔を赤くしてしまい顔をよりさらに伏せた。
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みんなテストで心がやられかけていたが時間は残酷にも進み授業も進む。
輝もやっといつもの生活に戻れて安心感が増した。
いつもの学校生活がまた繰り広げられる。
「ん、ふぁぁぁ!」
輝は気持ちよく眠れてとても上機嫌だ。
四限を寝てしまい目を覚ますともう昼休みの時間だった。
「と、とりあえず開けるか」
輝はいつもと同じくスマホを開けゲームを始めようとするが隣から鈍い痛みを加えられゲームができなかった。
「ぐふぇ!誰だ?」
「授業中寝てる分際でゲームとは良いご身分ね」
隣を見るとボールペンのボタン部を輝に突きつけるように持っていた。
輝はさっきの痛みはこのボールペンのせいだと一瞬で理解出来る。
「さ、さすがに痛いわ!」
「そう、目覚めにはだいぶ良くない?」
「ドSかよ」
「ドS?」
美神の純粋な眼差しに輝は謎の罪悪感とやってしまったという罪の重さで心が潰れそうだ。
だが逆に言うと美神はこの手の話は未経験。
美神の新たな弱点を見つけ出し謎の喜びが輝には生まれる。
(この情報は要にでも持っていくか)
しかしまた美神は視線を変え話し出した。
「輝は卒業するつもりあるの?」
「ある・・・そうならないためにも順位は良い感じに耐えてるし課題は出す」
「そうなのね、てっきり永遠の高校生ライフを満喫したいとか言い出すのかと」
「俺はそこまで馬鹿じゃねぇ」
美神から見ての輝の知能数の低さに若干驚きを隠せない。
ほんの少しだけ悲しい気持ちがあるが正直どうでも良いということになる。
「俺の知能数だいぶ低く見られてない?」
「結局3大欲求を満たしたいだけの能無しとして見ているからね」
しれっとえげつない言葉を息を吐くように吐く美神にはここまで来たら尊敬の意すら抱こうとしている。
地味に気づきがしなかったがよく見ると美神の席には参考書とノートが用意されている。
「努力家だなぁ」
そう言うと美神は真剣な眼差しで輝をじっと見つめた。
わざわざペンを止めてまで言う重要なことなのだろう。
「頑張らないといけないの・・・あなたと違って」
「・・・そうかい」
今までにないくらいの剣幕なためあたり軽口を気軽に話せない。
しかし美神の筆の動きは少しづつ止まりつつある。
その様子を見た輝はあるものを美神に渡す。
「ほらよ、疲れた脳には甘いものだろ、食いなよ」
「あ、ありがとう」
渡したのはクッキー1枚だ。
なぜ渡せたかと言うと輝の小腹が減った時のようにストックを持ってきているということだ。
クッキーを貰うと美神は申し訳なさそうな雰囲気で食べ始めた。
美味しいのか顔がふわふわにとろけそうな顔になってきている。
その姿をじっと見つめていてのか輝の顔にノートを投げつけられた。
「げふ!」
「何じっと見つめてるのよ!このバカ」
「ててて、バカはどっちかっつーの」
顔に突きつけられたノートをそそくさと美神は回収するとまた参考書とノートに意識を変えた。
少し脳が落ち着いたのか問題を解くスピードが早くなってきている気がする。
顔もとても集中しており下手に話しかけれないほどだ。
(ここまで頑張ってあいつには何があるんだ?)
美神のこの異常なまでの努力家なところは尊敬するべきところでもあり若干恐怖を抱くこともある。
(なんだ、生まれ持っての天才じゃないじゃん、努力の末の天才なんだな)
この努力心は輝とは真逆だ。
しかしそれだからといって妬んだりはしない。
尊敬の意を評するくらいだ。
(報われて欲しいな、ここまで来ると)
輝は何も言わずにただゲームをする。
しかし美神のことを全く気にかけてないわけがなく気にはかけている。
だが彼女にはそう言わない。
それが今輝が美神にできる最大限の行動だ。
下手に言えば美神に嫌われるかもしれないから。
「頑張れよ」
そう聞こえないように輝は呟いた。
美神はそのセリフを聞こえたがなんとかの思いで耐え抜いたのはまだ内緒。




