決戦を前にして
猟犬隊の活躍により、町の混乱は少しではあるが沈静化してきた。脱出を試みる人はいなくなり、路上強盗や盗人の類も大幅に減少した。とはいえ、誰もこんな町に住みたいとは思うまい。人々は、猟犬隊に撲殺される恐怖におののきながら、日々の生活を送っているのだから。
この日、わたしは緊急対策会議の名において、ドーンと同じような(この時点においてもドーンの傘下に入っていない)暴力的結社のリーダーを館に招集していた。用件は一つ、
「あなたたちも猟犬隊に加わりなさい。イヤなら犬のエサよ」
暴力的結社のリーダーたちは、あっさりと降参して傘下に入った。(子犬サイズのプチドラではなく)隻眼の黒龍が、わたしの横でにらみを利かせていたからだ。ドラゴンは力の象徴、力の論理で動く連中には効果が大きいのだろう。
例外的に、一つか二つ、招集に応じない団体もあった。気骨を示したつもりかもしれないが、そんな団体の構成員は、当然ながら、猟犬隊によって一人残らず誅戮された。人員は惜しいけど、秩序を回復するためだから仕方がない。それに、この程度の人的損失なら、いわゆる「誤差の範囲内」だろう。
わたしがミーの町の支配体制を固めていく間、混沌の勢力との戦いも続いていた。傭兵は逃亡し、今や騎士団だけが孤軍奮闘というハメに陥っていた。わたしが町を乗っ取ったことは騎士団にも伝わっていて、ゴールドマン騎士団長からは、この件を詰問する手紙が何度も届いた。わたしはそのたびに、「すべて緊急対策会議の決定だから、問題ない」旨の手紙を返した。
わたしのクーデターが士気に影響したということもあろう、騎士団にとって戦況は絶望的で、もはや一分の望みもなかった。騎士団は後退に後退を重ねた。
「もうそろそろ最後の仕上げかしら。でも、それにしても、敵さん、数が多いわね」
わたしは子犬サイズのプチドラを抱き、町を囲む城壁の上に立った。戦場は、町から見渡せる地点にまで迫っていた。手前には騎士団、その向こうには混沌の勢力が陣を敷いている。優劣は明らかで、混沌の勢力は、騎士団の数倍…では済まない程度に膨れ上がっていた。
「安心して、マスター。全然、問題ないから」
プチドラは事もなげに言った。
わたしとプチドラは館に戻った。そして、自分の部屋でゴソゴソと……
「おかしいわね。どこにいったのかしら」
「ねえ、マスター、さっきから何をしてるの?」
わたしは部屋を引っ掻き回して捜しものを……
「ああ、あったわ」
ようやく目的のものを捜し当てた。久々に登場、伝説のエルブンボウ。最終決戦は、ホンモノの「皇帝の騎士」が隻眼の黒龍に乗り、伝説のエルブンボウで敵をなぎ倒すという筋書きだ。
「今度ばかりは、わたしが先頭に立って戦うから、よろしく」
「いよいよラストダンスだね。エスコートはぼくに任せて」




