カニング氏の野望
わたしは部屋に戻り、ベッドの上で横になった。ゴールドマン騎士団長は単純そうだから、わたしが言ったように、途中で進軍を停止し、様子をうかがうだろう。問題はカニング氏だ。義勇軍は、最初のうち、すなわち混沌の軍勢に占領された地域を奪回するまでなら、勝てるだろう。誰でも、自分の家や土地を取り戻すためになら、決死の覚悟で戦うだろうから。
でも、敵地に乗り込むとなれば、話は別ではないか。ホームシックで士気は落ち、見知らぬ風土病に悩まされ、不慣れな土地で敵の奇襲に遭えば、もともと寄せ集めの義勇軍だから、すぐにでも崩壊するだろう。
騎士団・傭兵部隊が動かないのを見てカニング氏も進撃を停止してくれればいいが、そうなるとは限らない。適当なところで適当な理由をつけて、伯爵の強権発動で、カニング氏を召還してもらわなければならないだろう(カニング氏が素直に召喚に応じるかどうか……)。また、騎士団長への嘘八百をどう繕うか…… これは、単細胞の騎士団長が相手だから、なんとかなる。
わたしはベッドに仰向けになってまどろんでいたが、
「うぐっ……」
急に胸の辺りが重くなったので、思わず声を上げた。
「ただいま。」
プチドラがわたしの胸の上に姿を現した。わたしはそのままの姿勢で、
「遅かったわね。面白い話が盛りだくさんだった?」
「そうでもなかったよ。大部分は愚痴だったし。でも、中にはね……」
プチドラの話によれば、今回も、魔法使いと人相の悪い男はカニング氏を口汚く罵っていたとか。人相の悪い男がキレたのは、カニング氏に「シーフの分際で王侯貴族の晩餐会に招かれるのは、自分のおかげだ。感謝しろ」と言われてカチンときたかららしい。人相が悪い男にせよ、魔法使いにせよ、早くこのチームを解散したいと考えているようだが、帝国宰相の命を受けて派遣された立場上、この戦いが終わるまで、カニング氏から離れるわけにはいかないという。
「それで、ここからが面白いところなんだけど」
プチドラはわたしに顔を近づけた。プチドラによれば、人相の悪い男は、「バーンの野郎、宰相と密約を結んでるんだ。今回の戦いで混沌の軍団を撲滅することができれば、バーンが爵位を受け、ウェルシー伯に任命されることになってるんだ。オレはこっそりと宰相とバーンの話を盗み聞きしたんだ」と洩らしたとか。魔法使いに「滅多なことを言うもんじゃない。誰かに聞かれたらどうするんだ」と、たしなめられたそうだが、もう遅い。
「そうなの、それでカニングさんは攻勢作戦にこだわってたのね」
プチドラのおかげで、カニング氏の猪突猛進ぶりの理由が分かった。わたしが騎士団長にした話も、あながち嘘とも言えなくなった。
さて、これからどうするかだけど……、今日はもう遅いので、とりあえず、寝よう。おやすみ。




