単純なお人
わたしは小声で話を続けた。
「志願兵募集事務局では、カニングさんを責任者として志願兵の募集を行ってきました。わたしも事務局で仕事をしていて気付いたのですが、カニングさんは、街頭演説でもしきりに『皇帝の騎士』バーン・カニングを強調し、まるで義勇軍が自分の軍隊であるかのような言動を繰り返してきました」
「いくらなんでも調子に乗りすぎだ。伯爵を差し置いて、何たる無礼なことを」
「今回の作戦をきいて、ふと思ったのですが、この作戦は、カニングさんが伯爵領を自分のものにしようとする計略ではないかと……」
「な、なに! それはどういうことだ」
騎士団長は気色ばんで言った。大きい声だが、誰もがみな、先刻からの酔いどれカニング氏の大暴れに気を取られていて、気がつかなかった。
「お静かに。あまり大きな声で言える話ではないのです。今回の作戦は、本当は、騎士団と傭兵部隊を敵の本拠地に向かわせ、その間に、がら空きになったミーの町を義勇軍で占領しようというものではないでしょうか。カニングさんは帝国宰相とつながりがあると聞きます。ミーの町を占領すれば、帝国宰相が新たに傭兵を手配し、カニングさんに供与する約束になっているのかもしれません」
騎士団長は息を呑んだ。
「カ……、カトリーナ殿、その話は……」
「わたしの推測ですし、証拠があるわけではありません。でも、カニングさんの言動を見ていると、あながち根拠のない妄想とも言えないと思います」
「うーむ。それならば、どうしたものかな」
「途中で一旦進軍を停止し、義勇軍の動向をうかがってはいかがでしょうか。義勇軍が宝石採掘地帯を奪回し、さらに先に進むようであれば、それを確認した上で、進軍を再開しても遅くはないと思います。もし、義勇軍がおかしな動きをしたなら、その時はミーの町に取って返せばよろしいのでは?」
「そうだな、そうしよう」
「はい」
「ところで、先ほどの小僧の謀反の話、わしが真相を確認するまで、他言無用に願いたい」
「それはもちろん分かっています。うっかり人に言えるような話ではありませんから」
騎士団長は、わたしに礼を言って壮行会会場をあとにした。われながら、よくもまあ、嘘八百を並べたものだ。騎士団長は本当に単純なお人(もしかして、バカ?)、見事に引っかかってくれた。こうしておけば、少なくとも、騎士団・傭兵部隊が突出して自滅することはないだろう。
その後、しばらくして、ハプニングだらけの壮行会は終了した。




