小さな発見
義勇軍に志願する人が増えるにつれ、志願兵募集事務局も忙しくなってきた。具体的に何が忙しいかを答えることは難しい。役所の仕事とは、だいたいこんなもので、何が忙しいのか分からないけど、とにかく忙しくて、その割にはあまり成果が上がっていない。
しかも事務局員は役に立たない人ばかり。この場合、通常なら業務が停滞するはずだけれど、なぜか、事務は滞りなく進んでいた。というのは、ポット大臣が(事務屋的意味で)ものすごく優秀で、意思決定から雑用に至るまで、仕事の大部分を淡々と一人でこなしていたからだ。
大臣は、朝早くから夜遅くまで、書類の山に囲まれて黙々と働いていた。最初に薄い頭と三白眼を見たときには、生理的な嫌悪感さえ感じたほどだったが、仕事ぶりを見ていると、それほどイヤな感じはしなくなった。
「それにしても大臣、よく働きますね。大部分の事務局員は仕事もせずに遊んでるのに」
「私の性分みたいなものでね。それに、見た目ほどハードではないのですよ」
大臣は私を見上げ、ニヤリとした。三白眼が妖しげな輝きを放つ。こういうところは少々不気味。外見的な美しさと仕事上の処理能力を兼ね備えることは難しいようだ。ただ、どんな職場でも当てはまることだけど、一人だけよく働く人がいれば、組織は動く。
大臣はよく働いていたが、わたしは生来の怠け者なので、ほどほどに手を抜いて仕事していた。とはいっても、他の事務局員よりもはるかにマシだったようで、そのうち、大臣から、事あるごとに、いろいろな仕事を頼まれるようになった。
仕事は志願兵募集事務に限られず、伯爵領の経営全般に及んだ。本来はぼんやり公務員のわたしがこれだけ重宝がられるということは、それだけ、ここには人材がいないということだろう。
この日もわたしは館内の資料室で調べものをしていた。
「怠け者とか手抜きとか、なんやかや言いながら、それなりによく働くね」
プチドラが言った。このごろ、屋内にこもることが多いので、退屈そうだ。
「わたしは本質的に働かない人だけど、他に働く人がいない場合、仕方なくね」
「ほんとにそうかな。なんだか楽しそうに見えるけど」
「調べものは嫌いじゃないからね。それに、必要な知識は仕入れておかないと……」
資料室での調査には役得もあった。帳簿や資料などを見ていると、伯爵領の経営状態が手に取るように分かったからだ。そもそも、農業には不向きな辺境地帯の伯爵領が外敵と抗争を繰り返していれば、商業は育たず交易の利も得られず、財政はとっくの昔に破綻しているはずだ。しかし、今に至るまで、そうならなかったのはなぜか。当然、そうならないための何かがあるはずだ。
「ねえ、何を面白そうに見ているの?」
プチドラはわたしの肩に乗っかり、耳元で言った。
「今になってようやく分かったわ。争いの原因はどこも同じなのね」
わたしは「ふぅ」とため息をつき、プチドラに顔を向けた。




