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夜が来る

 車は日没直前でその歩みを止めた。今日はここで夜を明かすようだ。サイモドキは引く為の装具から解放され、のんびりと前に出された各種野菜や果物を口に入れている。さて、俺も食事の準備だなと考えたリックが車から降りる。


「おい、どこに行くんだ? そろそろ飯だぞ?」「ああ、だから飯を作りに行くんだが……」「作らなくても配布されるぞ?」「え? そうなのか?」


 降りたリックに、闘士の一人がそう説明する。だが、配布される飯の内容が肉を重視しすぎなラインナップである事と、温かいものがいっさいない事を知ってリックは首を振る。


「肉ばっかりじゃないか」「何言ってんだ、肉を食ってなんぼだろ。それに肉なら狩りをする事で補充も出来るからな。野菜なんかはあいつらの飯として使わなきゃなんねえし……あいつら肉だけは食わないんだよな」


 闘士の言うあいつらとはサイモドキの事だ。4匹のサイモドキは美味しそうに果物を食べている真っ最中だった。まあ、あんなにおいしそうに食べている彼らから物を奪おうとはさすがに考えていない。だが……


「やっぱり少し葉物や根物が欲しいからとってくる」「とってくるってどこでだ?」「すぐ戻る、止まる直前にいくつかの香草や野草などがある場所が目に入っていた。日が暮れる前に戻る」


 リックはそう伝え、目的の場所を目指す。とはいっても歩いて3分にも満たない場所だが。そこで野菜を獲得。手に入れたのは地球で言うならトマト、玉ねぎ、ジャガイモ、後は香草といった所である。味は流石に品種改良された日本の野菜には劣るが、肉ばっかりよりははるかに良い。ジャガイモはとっておくとして、今日はトマトと玉ねぎ使ったスープを作る事にしようとリックは決める。


「戻った」「マジであったのか。だがピュナとリーゴとジャイか……ジャイはともかくピュナは青臭いしリーゴは辛くて好きじゃねえんだよなぁ。後葉っぱなんて食えるのか? 苦いだけじゃないのか」


 リックのとってきた野菜、トマト(彼らはピュナと呼ぶ)と玉ねぎ(彼らはリーゴと言う様だ)とジャガイモ(ジャイ、と言っている)を見た闘士の感想はそういう所であった。


「まあ、あくまで自分が口に入れる物だからな。皆に食えなんて押し付ける真似はしない、食いたくない物を押し付けるなんてのは乱暴すぎる行為だと俺は思っている」


 まあ、リックにとってはあくまで自分が食うものを作れればいいし、押し付けるようなつもりもない。外に出て火を起こし、さっそく料理の製作に取り掛かる。今回作るのはトマトをメインに据えたスープである。バイトをしていたあるお店で、教えてもらったレシピで作る一品だ。もちろんお店のスープなのでレシピは公開できない。


(美味いんだよな。トマトがあまり好きじゃなかったが、このスープを先輩に進められて飲んでみてからは考えが改まった。トマトの質が低いから同じような味は望めないだろうが、それでも作って飲みたい)


 配布された肉の一部も、だしを取るために鍋に投入する。灰汁を取って、トマトなどの材料も適時レシピに従って投入。調味料で味を調える……やっぱり味が落ちるなと内心で思いつつも、リックにとってはそこそこの味になったので妥協。晩御飯を食べ始める。


(むう、貰ったものに文句を言いたくはないが……ちょっとこの肉は脂身が多すぎるな。明日からはこっちも手を入れよう。とりあえず今日は胡椒をある程度多めに振って、後はスープで……)


 そんな食事中のリックを見ている数人の闘士がいた。彼らは夜の見張りの前半部分を担うために外にいたのだが、リックの作ったトマトのスープの入った鍋からくる香りに心を引っ張られつつあった。


「なあ、あのスープはなんだ? かなり赤いんだが」「しかし、いい香りじゃないか。すでに夜の食事は終えたというのに食欲を刺激される」「作ってるところを見たが、あれはピュナやリーゴが入っていたはず……美味しそうには思えないはずなんだが」「ピュナかよ、俺あれ苦手なんだよなぁ。他に食うものがないってとき以外はちょっと避けたいぜ」


 やいのやいの言っているが、視線は鍋から外れない。見張りは良いのかとリックは考えたが……こういう物は一度味わってもらった方が早いと考えて闘士達を呼んだ。


「味見したいのであれば構わないぞ。美味しいかどうかの保証はしないが」


 リックの言葉を聞いて、素早く鍋のそばにやってくる闘士達。苦手だとか嫌だとか言っていたくせに、なんて感想はリックの心の内に深く隠される。リックから少しだけスープを入れた容器が闘士に渡される。少しだけなのは、口に合わなくても飲みきれるようにする為だ。


 さて、渡された闘士達であったがなかなか口をつけない。お前行けよ、いやお前が行けよという空気が漂うのはどこの世界でもかわらないらしいが……1人が意を決して遂にスープを口に運び……容器をリックの前に差し出した。


「すまん、追加をくれないか?」


 まさかのお代わり要求に、他の闘士達も次々とスープに口をつける。そして、表情が驚愕に染まる。


「うそだろ、こんな真っ赤なスープが美味い……」「味は確かにピュナやリーゴなのに、こんないい味がでるのか!?」「少しだけ入っている肉が多分大事なんだろ、でも肉だけじゃこんな味は出ねえ。ピュナやリーゴってのは、こんな味が隠されていたのか?」「信じらんねえ、俺も追加をくれ! もうちょっと味わってみてえ!」


 結局皆がお代わりを要求し、余ったら明日の朝飲めばいいやと思っていたスープは見事に完売した。大した量もなかったので、1人が2杯飲んだらお終い程度の量しかなかったが。なんにせよ、温かいものを腹に入れた事でほっと一息。だが、息を吐いたらすぐに魔除けの旋律と呼ばれる物をリックは弾き始める。


「なあ、このスープ……また、作ってもらえないか? もちろん報酬は出すからもっと量を多く」「ああ、金を払う価値があった。というか、今日ここで飲んだ分の対価を払いたいんだが」「ピュナが嫌いだったが、このスープは美味かった。ピュナってこんなにいいスープになるんだな」


 スープを食べた闘士達は、早くも次の要求を始めていた。もっともタダで寄こせというのではなく対価はちゃんと出すといっているからかなりマシな方ではあるが。


「途中で取れるもの次第だからなぁ……街中で安定して物が買えるというのであれば約束も出来るんだがな。ああ、それと今回は俺が勝手に振舞ったんだから金はとらんよ。これで取ったら俺の中では詐欺師になっちまう」


 リックは、そう言って今回のスープ代はとらない事にした。懐はあったかいし、雇われたことで街につくまで収入は安定して入る。それに、今回は人に売る目的で作った訳ではない。売るならもうちょっと味を向上させたい所である。そうしないとバイト先に申し訳ない、何て事も心のどこかで思って居た事もある。


「そうか? それなら今回はごちそうになったという事でにしておくか」「しかし、まさかこんな場所でうまいスープを飲めるとはな」「基本的に保存食の毎日だからなぁ……不満は無いんだが、こういう美味い物に出会えないってのも当たり前だった」


 リックの言葉を聞いて、そんな言葉を口にした後に夜の番の為に彼らは担当している場所に。リックは車の中に入って弾き続ける。サイモドキたちは車のそばですでに寝入っている。こうして、夜はゆっくりと更けてゆく……そしてモンスターの襲撃は1回も起きる事無く朝を迎える。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁお腹空いてきた(ノ´∀`*)トマトスープ食べたい ……手元にはフルグラとコーンスープ(´・ω・`) [一言] トマトとか野生でも弱そうだけど魔物には見向きもされなかったのかな?(´ω`…
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