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家族に虐待され学校でも虐められている俺がお嬢様を助けたら婚約者になって人生大逆転できました。  作者: 松竹梅竹松
第4章 家族

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第4章 第5話 悪の終わりと続き

「それで、何でこの流れで戻ってきたんですか?」

「いや……冷静に考えたら俺いらないなって……」



 アクアや斬波のお父さんと犯人であると思われる元両親を捕まえる作戦を練った俺は、早苗と斬波と共に昨日も訪れた縁側にいた。



「俺が知ってることはアクアも知ってるからな……。速く動けない俺がいても迷惑をかけるだけだ」



 クソ両親は面倒事を起こす時、とある癖をよく見せる。それは灯台下暗し。逃走したと見せかけて近くに潜んでいることが多い。悪く言えば犯人は現場に戻る、と言ったところか。だから50人以上いる使用人を2つのチームに分けた。片方は家とその付近の捜索。もう片方はアクアと共に作戦を実行している。



 単純だが、誘き寄せ。もっと高価なものを盗んだから拾いに来てくれというメールをクソ両親とイフリートに出した。そして集合場所に武藤家の人を潜ませ、確保。めちゃくちゃ単純だが、馬鹿両親は馬鹿だから引っかかる可能性も充分ある。



 あともう一つ作戦を用意したが……これを使うことになったら俺の出番になるだろう。それまでは待機だ。



「それにしてもよかったですね。妹さんと仲直りできて」

「そんなんじゃないよ。利害の一致……ってやつで。いや……どうなんだろうな。正直わからない」



 自分でもわからないんだ。仲直りできるなら、したいのか。恨みに恨んでいたあいつらを許すことができるのか。



 もちろんちゃんとした家族になりたい。でもこれは叶わない夢で……よくばりだ。どうせまた裏切られる。今回みたいに。だけど……俺は……。



「ところで斬波、どうして私服に戻ってるんだ?」

「だってあいつらが逃げ出したってことは私に給料払えないわけじゃん?」

「あああそうだったぁ……!」



 すっかり忘れていた。昨日お父さんにかっこよく斬波は俺がもらう! って宣言したのに……いやしてなかったかもしれない……よく覚えてない……。



「よし、バイトするか……!」

「えー! 駄目ですよ! バイトなんてしている暇あったら一緒にいましょう?」

「何なら出世払いでもいいしね。まぁでも私、そんな安い女じゃないけど」



 俺、早苗、斬波。顔を見ることはないが、3人共同じ方向を見ながら談笑する。事件が起きたが目の前の景色は平和そのもの。日常ではないが、平穏な風景。



「このままずっと……いえ、何でもないです」



 念押ししようとした早苗だが、言葉を押しとどめる。言わなくてもみんなわかっている。このままずっと3人でいられたら、なんて。だがその夢には、一つの試練があった。



「……早苗、少しいいかな」



 斬波が縁側から庭に下り、早苗の前で膝をついた。



「えっ、なんですか急に!? 何か悪いことしちゃいました!?」



 早苗は知らない。斬波の気持ちを。だから知らなければならない。知らないことは、知らなければいけないのだ。



「悪いこと……そうかもね……。やっぱり私は、悪人だよ……」



 言いたくない。その気持ちが斬波の表情から伝わってくる。それでも止まれない。俺たちの関係を、続けるために。



「早苗……あなたのことが好き。あなたに恋しているの。だから私と結婚してください」



 そう伝えた斬波の姿勢は土下座に近い。それが意味することは一つだ。



「……無理なのはわかってる。わかってるのに……わかってたから……。早苗が寝ている間に、キスしてた。練習だって言ってしたこともあったし……マッサージだって言って身体を触ったこともあった……。許されないことをしたのはわかってる。だから許してなんて言わない……けれど。謝らせてください。ごめんなさい……!」



 そう謝ることが、どれだけ勇気が必要なことかは俺にはわからないし、わかる必要もない。俺がしなければならないことは決まっている。ただ2人の関係を見守ることだけ。それしか俺にはできない。



「そう……ですね……。ごめんなさい。私はジンくんのことが好きなので斬波とは結婚できません」



 告白を受けた早苗は。まっすぐに、斬波を振った。正面の斬波の身体が強張り、横の早苗の身体が震える。



「それと……やっぱりごめんなさい。私は斬波の気持ちに気づけませんでした。同性を好きになる人は珍しくはないということを知っていながら、その考えに至りませんでした。私の思慮不足です」

「早苗は悪くないっ! 悪いのは私で……!」


「確かに寝ている間にキス、とかは悪いことですね。でも人が人を好きになることを悪いことだなんて言いたくありません。主従関係とか、同性だとか、関係ないんです! ……でなければ、私はジンくんを好きになれませんよ。斬波は悪いことをした。そして斬波は謝った。これ以上言葉は必要ありませんよ。あなたの謝罪を受け入れます」

「早苗……さなえぇ……!」



 涙が止まらなくなってしまった斬波へと早苗が駆け寄る。そして優しく抱きしめた。



「振った相手に言うのは忍びないのですが、お願いします。これからも私とずっと一緒にいてください」

「うん……うん……っ。早苗と……ジンと……ずっと一緒にいたいぃ……っ」



 本音を言わせてもらえば。こうなることはわかりきっていた。それでも茶番だなんて言葉では片づけられない。これは必要な儀式だったんだ。悪いことをしたら謝る。許せるのなら許す。その当たり前のことができない人が多くいるこの世界でそれをすることは、何よりも大切なことなんだ。



「それと私……ジンが寝てる間にキスしたこともあって……」

「は? 浮気じゃないですか」

「……え? ちょっ、まっ……!」



 優しく慰めていた早苗が、斬波の一言を聞いてスッと立ち上がる。そして光を失った瞳でフラフラとこっちに近づいてきた。



「なんで!? なんかいい感じに終わりそうだったじゃん!」

「それとこれとは話が別です。ジンくん、詳しく説明してください」


「俺だって知らないよ! 斬波、何とか言って……!」

「早苗っ! 逃げてぇぇぇぇっ!」



 これもある意味ではわかりきっていた流れだった。ちょっと浮気っぽいことをすると早苗が怖い顔をするという流れ。それが俺たちの日常だった。



 そしていつもその日常を壊すのは、理不尽な悪意だ。



「お前らぁっ! 人質になれぇっ!」

「親父……! お袋……!」



 おそらく見つかり追われ庭へと逃げ込んできた俺のクソ両親が。俺と早苗の首にナイフを突きつけた。

本日中に物語完結の予定です! 複数話投稿すると思うのでぜひブクマしてお待ちください!

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