番外編・フローとアルとテイマーと その5
かなり押さえて書きましたが、若干いつもより、残酷な内容が入っています。
◇魔獣◇
アイちゃんは、ペロペロ私の手を舐めています。
時々額に角のような突起物が現れますが、今は出ていません。
「実際、どうやって獣が魔獣になるんだ?」
アルバスト先輩が、ビスタフさんの顔をじっと見つめます。
「俺が聞いた方法は、結構えげつないものだ。……空腹にさせた獣に、テイマーの肉を喰わせて、呪をかける」
室寧にいた人たちの顔が固まりました。
私も、胸がズキンとします。
獣を空腹にさせる。
それを想像するだけで、心が痛いです。
アイちゃんや、鮮やかな羽の鳥さんたちが、お腹を空かせている。
そこに、普通なら食べないはずの、肉を与える……。
ウサギは草食なのに。
鳥たちは人の血液なんて、飲みたくないだろうに。
なんて、酷いことを。
そこまでして、魔獣を生み出す必要が、あるというのでしょうか。
私には、分からないことばかりです。
「フロー!」
アルバスト先輩が、焦った声で私の肩を抱きます。
先輩は、ハンカチを出し、私の頬に当てました。
「あ、あれ……?」
私は涙を流していたのです。
虐げられた生き物を思って、泣いてしまったのですね。
「ゴメン! 悪い! 女子の前で言う内容じゃなかった」
私の涙に慌てたのか、ビスタフさんが何度も頭を下げます。
「すまなかった、フローナ嬢。君がウサギや小鳥を育てたのを、失念していた」
殿下も謝罪を口にします。
「い、いいえ。すみません。泣くなんて、貴族の子女にあるまじきことを」
「泣きたい時は、泣いていいから」
アルバスト先輩が、私の頭をぽんぽんします。
「ただ、覚えておいて欲しい。皆も」
殿下が全員を見渡して言います。
「幸い、わが国は現在、攻めることも、攻められることもない。
だが、この大陸はまだまだ、火種が残っている。
ひとたび戦争が起これば、生き物の命など、紙屑より軽い。
人の命さえ、軽く扱われるのだからな」
「うわっ! なんか殿下が、真面目なこと言ってる!」
しんみりとした雰囲気でしたが、メジオンの言葉で少し明るくなりました。
「だから、『火事になる前に、火を消す』んだよね、アリッシー」
パリトワ様が言うと、「その通り!」と元気よく、殿下が答えました。
そうか。
魔獣を使役して、戦を仕掛ける国があるのなら、対処方法を知っておく、必要があるのですね。
そんな必要性、なければ良いのに……。
「分かりました、殿下。私も方法をちゃんと知りたいです」
「うんうん。わたしがビスタフを呼んだ意味が、ようやく伝わったようだな」
アイちゃんは、大人しく丸まっています。
ちらりとそれを見た、ビスタフさんが言いました。
「殿下から、魔獣っぽい生き物を、育てている生徒がいると聞いてた。血や肉を与えることなく、人間の指示に従う魔獣なんて、俺は信じていなかった」
え?
育てている?
それって、まさか。
私のことじゃ、ないですよね。
ね。
「実際見て思ったんだ。人間が愛情をかけて育てると、魔獣の獰猛性は、押さえられるんじゃないかって」
アイちゃんは、元々、可愛いウサギですもの。
魔獣?
いやいや、違いますって。
「俺はその鍵を見つけたと思う」
ビスタフさんがツカツカと私の前に来ます。
そして私の手を取りました。
「鍵は、君だよ。フローナ嬢」
はい?
手を離さないビスタフさんに、アルバスト先輩が牙を剝き出しにした魔獣のような顔をしていました。
テイマー編、あと少し続きます。
鍵って何?




